1章 地獄の世界 4話
「簡潔に言ってしまえばそうなる。後は危険な思想を持つ者もそれに該当するだろう。……だが、お前さんの場合は」
「危険な思想の持主か……なら俺はそっちなんだろうな」
ジェイルはバロックの言葉を最後まで聞かず納得してしまった。自分がこれからやろうとしている事に自分が危険な思想の持ち主だ、と。
もし神が居るのなら、それを予期していたのかもしれない、とジェイルは思ってしまった。
復讐を決心したジェイルの目は生気が戻り鋭くなる。
しかし、どことなく、黒く濁る眼。
「そう自分を卑下するな。お前さんがこの地獄に落ちた他の可能性だって残っている」
「そんなのはどうだっていい。それよりここから出る方法を教えてくれ」
推測しようとするバロックに言葉でかき消そうとするジェイル。
「……どうやら己の道を見つけたようだな。まあいい、ならその前に、そこにある小石を取ってくれぬか?」
炯眼の眼差しを向けてくるジェイルを目にしたバロックは深いため息を吐き推測するのを止めると、ジェイルの足元にある何の変哲もない丸い石に指を差す。
「えっ、……これの事か?」
ジェイルはこの小石に何の意味があるのだろう? と首を傾げる。
「深い意味はない。ただ私と友好関係を築く為のスキンシップとでも思ってくれたらいい」
その言葉に益々(ますます)首を傾げるジェイル。警戒しながら、その小石をゆっくりと手にする。
「これは直感なんだがな、お前さんは私と仲良くなった方が良い」
にっこりとした表情でバロックは鉄格子の隙間から手を伸ばしてきた。
バロックの言葉の意味を理解しようとしても、まるで見当がつかない。
ジェイルは小石ぐらいなら、と軽い気持ちで、バロックの手の平、目掛けて投げた。
「ありがとう。やはりお前さんはそんな悪い奴じゃないよ」
小石を手にしたバロックはジェイルに微笑んできた。
「……どうだかな」
ジェイルは素っ気ない態度だった。
「まあいい。さて、そこから出るのは簡単だ。お前さんの後ろの石壁を押して見ろ。それでこの町、リンダルトに出られる」
「なんだって⁉ そんな方法で出られるのかよ」
ジェイルは戸惑いながら後ろの石壁に目を向け近づく。そして石壁に両手を当て、力強く押す。
すると、石と地面が引きずる音と共に、石壁がゆっくりと片開きで開いていく。
「ではなジェイル。お前さんに幸運がある事を祈っているぞ」
「……ああ、世話になったな」
ジェイルは軽く振り返りながらそう言い残し、扉の先へと消えていった。