7章 思わぬ邂逅 10話
「鈍い男だねえ。ブルンデの居場所にまで送ってやるって言ってるんだ。どの道ナイラじゃ騒ぎになっている。今すぐ外に出るよりもある程度騒ぎが収まるのを待つ方が得策だよ。」
ニイナは呆れた口調でジェイルにそう言った。
「いいのかよ? でも何でまた?」
どう言う心境の変化か理解できなかったジェイルは首を傾げる
「……」
無言で威圧してくるニイナは再びジェイルの前で拳を強く握って見せる。
「わ、分かった。もう聞かないよ」
詮索される事を嫌っている、と分かったジェイルは顔を引きつりながら後ろに一歩引いた。
「話は済んだな。こっちに来いジェイル。それからニイナ。ラム酒はあるか?」
話を終えた事を確認したガーウェンは、ジェイルとニイナに自然に声をかける。
「なんであんたにラム酒なんて出さなきゃいけないんだい」
ガーウェンに不機嫌な表情を向けるニイナ。
「別に良いだろ。例の話の追加報酬みたいなもんだ。それに夜までの時間は有意義に使わないとな」
「ふん」
厭味ったらしい口調のガーウェンにニイナは鼻息を飛ばすと、無言でソファーの奥へと進んで行く。
そして、二分後、ラム酒が入った大きい樽を肩に担ぎ二つのジョッキを手にしてガーウェンの近くにあるテーブルにまで進むニイナ。
「坊やもこっちに来な」
ニイナがジェイルを呼びつけるとガーウェンはにやけながら椅子を二つ両手に持ち、ニイナが酒樽を置いたテーブルに椅子を並べた。
そのテーブルに大き目なランタンが灯された。
ジェイルはテーブルに近づくと、ニイナは無言でソファーに向かって行った。
「飲むぞジェイル。夜までまだ時間はあるからな」
ラム酒が楽しみなガーウェンは、にやつきながら二つのジョッキにラム酒を注ぐとジェイルも椅子に座った。
そして、ジェイルとガーウェンは喉から音を鳴らしながらラム酒を飲み始めた。
「お前、ニイナとどういう関係なんだ?」
三時間後、ガーウェンと雑談をしながらラム酒を飲んで落ち着きを取り戻したジェイルはニイナに聞こえないように小声で喋る。
そして、奥のソファーで座っているニイナに目線を向けてみる。
すると、何故かザクマンが窮屈そうに、ニイナの横に座っている。
ニイナは小瓶に入っている怪しげな液体をザクマンにちょびちょびと飲ませていた。
本当にニイナは自分好みの男に改造でもするのか? と強い疑問を持ったジェイルは強張った表情になり、これ以上首を突っこまない方が良いのではないか、と思い見て見ぬふりをした。
そして、ジェイルはガーウェンに視線を戻す。
「あいつとは昔からの腐れ縁みたいな物だ。お前が気にするような事じゃないのは確かだな」
ラム酒を飲んでいたガーウェンは顔を紅潮させながらそう口にする。
「それにしても天使界で死んだら地獄に送られるなんて、天使界にいる奴らはおちおち眠れやしないんじゃないか?」
ジェイルは空になったジョッキにラム酒を注ぎながらガーウェンに聞いてみた。
「地獄の人間は不老不死だが天使界の人間は不老ではあるが不死ではない。そのために、天使聖界の奴らは住民達に互いに互いを守らせるのさ。兵士達も安全確認のため頻繁に巡回してるしな」
「何だ天使聖界って?」
「天使聖界は神に仕える神官が居座り、幹部や隊長、兵士達に指示をだす機関だ」
ほろ酔い状態のガーウェンの説明を黙って頷きながら聞くジェイル。
「ちなみに神はどこにいるんだ?」
「さあな、その情報は俺にも分からない」
ガーウェンはそう言いながらラム酒を一口飲む。
「そうか」
ジェイルはガーウェンにも分からない事があるのか、と思い納得した。