前へ次へ
77/197

7章 思わぬ邂逅 9話

「別に飢えちゃいないよ。ただの気まぐれでこいつと取引をしたまでさ」


 ニイナは不機嫌な表情で(しち)(てん)(ばっ)(とう)しているジェイルに向け顎を軽く向ける。


 ニイナはジェイルとは反対の横に置かれているテーブルにまで向かうと、樽に入っているカリュバーナをグラスに注いで軽く一口飲む。


 そして、懐から葉巻とマッチを取り出し葉巻に火を付けふかし始める。


 「そりゃカリュバーナじゃねえか。俺も頂くぜ。ちょうど腹が減ってたとこなんだ」


 ガーウェンは(よう)()な顔でニイナがいる所に近づき、カリュバーナをグラスに注いで一気に飲み干す。


 「チッ」


 ニイナは美味そうに飲むガーウェンに向け軽く舌打ちをする。


 ガーウェンとニイナはテーブルに背を向けると背中をテーブルに預ける。


 横に並んで立っているガーウェンとニイナ。


 「そう言えばさっきの取引の話だがな、大体察しはつくぞ。生者(せいじゃ)の血だろ」


 一息ついたガーウェンは声のトーンを少し低くしニイナに話を持ち出した。


 「だったらなんだってんだい。あんたには関係ない」


 生者(せいじゃ)の血の話に動揺する事なくニイナは葉巻をふかす。


 「ニイナ。ちょっと耳を貸せ」


 ガーウェンはジェイルが未だに痛みに(こらえ)え続けるのを確認するとニイナに耳打ちをし始めた。


 「あんた! 何で今になってそれを教えるんだい⁉」


 数十秒の間、ガーウェンが何かをニイナに耳打ちをし終えるとニイナは身体をビクンと跳ねらせ驚く。


 「それだけお前とジェイルの取引が円満に進んで欲しいだけだ」


 ガーウェンはニヤリと笑みを浮かべ始める。


 「あの坊やにそこまで肩入れするなんてね」


 意外そうな表情で驚くニイナ。


 「にしてもあんた性格悪いね。なんであの坊やにそれを教えてやらないんだい?」


 呆れたような表情でそう口にするニイナ。


 「地獄じゃ誰もが快楽に(おぼ)れ、その身でありたいと願い続ける。だがジェイルは違う。あいつのイカレタ復讐心に()がれた旅は満たされない俺の関心に火を付けた。まあそれ以外にも理由はあるがな」


 黄昏(たそがれ)ているような表情で語りだすガーウェン。


 「ふん、要はあんたの気まぐれなんだろ。相変わらず勝手な奴だよ」


 ニイナは呆れた口調でそう言うとグラスをテーブルに置き、葉巻に付いている火も近くに置いてある灰皿で消すとジェイルの所に向かって行く。


 「いい加減立ちな。いつまでのた打ち回ってんだい」


 痛みが引き始めていたジェイルはふらふらしながら立ち上がった。


 「そうだニイナ姉さん。こういうのはどうだ。薬品を使ってザクマンを病の無い健康な身体にしてやればいいんじゃないか? それどころかニイナ姉さんなら理想の男に改造、いやいや、仕立て上げる事も可能なんじゃないか?」


 ジェイルはまた殴られるのか、と思い言葉を必死に選びながらそう口にする。途中で改造と口にしてしまったが慌てて訂正した。


 ちなみに、ジェイルが仕立て上げる、と言った意味は作り上げると言う意味で言っていた。


 そこでニイナは渋い顔になりながら沈黙すると、何か思案しているかのような顔つきになる。


 「……中々の妙案じゃないか」


 まさかの返答にジェイルは冷や汗を流しながらもホッとする。


 「と言うとでも思ったかい? 今度ふざけた事抜かしたら、今すぐにでも地獄行きの便を用意するよ」


 ニイナはジェイルの目の前で拳を力強く握って見せる。


 「わ、分かったよ! 俺が悪かった!」


 慌てながら威圧してくるニイナに謝罪するジェイル。


 「ふん、とにかく夜まで待ってな」


 「俺は夜になったら地獄に行くのか⁉」


 鼻息を吹くニイナに畏怖するジェイル。


 ニイナの言葉を夜になったら殴り殺されるのか、と解釈するジェイルだった。


前へ次へ目次