7章 思わぬ邂逅 5話
偽った言葉に後悔してやまないジェイルはザクマンを責められるわけもなかった。
「どこかえ向かう途中か?」
ジェイル達の前に立った兵士の一人がザクマンの呼びかけに自然に答える。
「ええそうなんです。実は‥‥‥」
ザクマンはジェイルから聞いたニイナの家の特徴を兵士達に伝えた。
その間、ジェイルは冷や汗を流しながら生唾を飲み込んでいた。
「その家ならさっき見かけたぞ。この家から五軒行った先がその家だ」
「これはどうもありがとうございます」
親切に応対してくれた兵士の一人に深々と頭を下げるザクマン。
そのままどこかえ行け、と何度も心で叫ぶジェイル。
「所でそこの男は目が不自由なのか?」
兵士の一人がザクマンの肩を掴んでいるジェイルに、ふと視線を向ける。
その声にジェイルは自分の心臓を鷲掴みにされた気分だった。
一体どう乗り切ろうか? と必死に思考を回すジェイル。
「そうなんです。実は彼、目が悪いんですよ」
ザクマンは機転を利かし、ジェイルを助けてくれた。
「そうなのか」
ザクマンの自然なフォローに何一つ不自然な点が無いと思った兵士達はその場で納得してくれた。
ホッと胸を撫で下ろすジェイル。
「とにかく気を付けて行くんだぞ。そこのお前もな」
ザクマンだけでなくジェイルにも気配りをする兵士の一人。
ザクマンは軽くお辞儀をするが、ジェイルは先程のように誤った対応をしてしまったら疑われる、と思い、必要以上に思い悩んでしまう。
「おい、どうした?」
焦って硬直し沈黙してしまったジェイルに疑問を持った兵士の一人が訝しい目でジェイルに視線を向ける。
「すいません。彼は目だけでなく耳も悪いのです。あと頭も」
更に機転を利かしてくれたザクマンだったが余計な一言にジェイルは驚いた。
(頭はいらないだろ! 頭は!)
ジェイルは唇をひん曲げながら、心の中で激しい憤りをザクマンに向けていた。
「なるほど。頭が悪いなら仕方ないな」
何故か頭が悪いと言う所で納得してしまった兵士達は揃って二度も頷く。
妖魔の剣を握りしめ狂乱したい、と思う気持ちを必死に堪えるジェイル。
「それでは、私達は行きますので」
そろそろ抜け出す頃合いだと判断したザクマンは落ち着いた声でそう言う。
ザクマンが歩き出すとザクマンの肩を掴み続けていたジェイルも歩き出す。
それを無言で見送る兵士達は少しするとジェイル達とは反対の方向に進んで行った。
少しずつ兵士達と離れていく内にジェイルの気持ちにも落ち着きが出てきた。
兵士達の足音が聞こえなくなったのを判断するとジェイルはそろそろニイナの家に着く頃ではないか、と思いザクマンに話しかけてみた。
「なあ、そろそろ見えてきたんじゃないか?」
「‥‥‥」
しかし、ジェイルの呼びかけになんの反応もしないザクマン。
一体どうしたのか? と思いザクマンの肩を何度か軽く叩いた。
「どうなさいました?」
肩を叩かれた事に気付いたザクマンはジェイルに振り向きキョトンとした表情で聞いて来た。
「だから、そろそろ着くんじゃないか?」
「なんですと?」
もう一度、同じ事を言うジェイルの声にも何を言っているのか、まるで分かっていないザクマン。
そこで、ふとジェイルはある事を思い出す。
それは先程、ザクマンが外耳道や鼓膜を指で刺激してから一時的な時間が経過したため、殆ど聞こえなくなってしまったのでは、と。
その事に気付いたジェイルは慌てだし、自分が天使界の兵士達に目を付けられてる事などすっかり忘れ、目を覆っていた布を勢いよく外した。