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1章 地獄の世界 3話

 ジェイルの表情に雲行きが増していく。


 「いいか。この地獄でも人は死ぬ。だが死んでもまた蘇る。そしてこの地獄での苦痛や死は全て快楽へと変わるのだ」


 それを聞いたジェイルは、どことなく全身が飽和されている感覚がした。


 しかし、そう簡単には受け入れられないジェイル。


 「快楽だって?」


 そんな事があり得るのか、と()()(かい)な面持ちになるジェイル。


 だが確かに地獄の人間達は互いを傷つけ合う事に、(かん)()し快楽を感じていたように思える。


 そして、ジェイル自身も先程、斬首(ざんしゅ)された箇所から、確かにそこから気持ちいという快感があった。


 そう思っている内に地獄の()(こう)を理解していくジェイル。


 理解したくもない現実だが、なんの権力も力もない一個人の身では、ただ受け入れるしかない。


 「どうだ? 少しは理解できたか?」


 青ざめた表情のジェイルはバロックの言葉が耳に入ってこなかった。


 ジェイルは心の内で戸惑う。


 酷く、醜く、残酷である程、世間ではそれを地獄と言う者もいるだろう。確かにその通りかもしれない。ここでは誰もが、殺されても、死なず、それは快楽を感じながら繰り返される。真っ当な人間からしたら、その異常な輪廻の世界は地獄と言えるだろう。


 生前の世界を地獄だと感じた事もあるが、ここは正に、生き地獄だ。


 ジェイルの中で繰り返されるかもしれない、と思う死の恐怖は、今いるこの世界を地獄と認識するのに余り時間は掛からなかった。


 「その様子から見て、少しは理解したようだな。お前さんがこの地獄に足を踏み入れた時にはこの世界の住人になっていたんだよ」


 ようやくバロックの声に耳を傾け始めたジェイルだったが、その時には絶望していた。


 湧きだす恐怖を押さえつけよう、と奥歯を噛みしめ深く俯くジェイル。


 「だがここにいる限りは安全だ。ここはリンダルトの総督が地獄で欲望のまま襲ってくる人間から逃れるために作られた(きゅう)(さい)()()のような施設だ」


 そんなジェイルを見て、バロックは安堵の言葉をかける。


 「こんな牢屋に入れられて救済も何もないだろ」


 心身共に追い詰められていたジェイルは真面(まとも)に答える余裕はなかった。


 「……なあ。俺はどうしたらいいと思う?」


 青ざめた表情のジェイルはバロックに自分の行くべき道を問いかけた。


 生前から人並の幸せを願っていたが、それはもう叶わない。


 死者となったジェイルは、もう自分の歩むべき夢の道は断たれたため、もうどこに向かえばいいのかも分からない。


 そうなると、他者に自分の進むべき道を尋ねるしかなかった。


 それが、初対面な相手であっても、ジェイルに選ぶ権利はないのだから。


 「とにかく、今は受け入れろ。この地獄を、死を恐れるな。恐怖と快楽に打ち勝つんだ」


 バロックの言葉に、ジェイルは心に大きい穴が開いた感じがした。


 まるで鋭利な刃物でも突き刺されたような感覚。そう簡単に受け入れるわけがない。地獄に落ちたいものなどいないのだから。


 ジェイルは奥歯を噛みしめながら地面を見つめていると、ふと生前に自分を殺した犯人を思い浮かべる。そしてその犯人の手の甲に刻まれたドクロと十字架のタトゥーが脳裏を過る。


 そこからだった。ジェイルがその人物に、どす黒い殺意が沸々と湧き上がってきたのわ。


 悲しい事にジェイルが恐怖と絶望に抗うために取った決断は復讐だった。


 「――なあバロック。この地獄に落ちる条件は過去に、過ちを犯した加害者のような奴だって事でいいのか?」


 自分で言ってて不思議に思うジェイル。当然、ジェイルは過去に過ちを犯してはいないはずなのに……いったい何故、地獄に?



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