6章 まだ見ぬ快楽のために 7話
ヨシュアは快楽戦士の一人から生首を受け取ると自分の上着を脱ぎ、手にしている生首を覆い隠すように包み込み船内に入る。血を一滴でも外に流させないために。
「なんでもいいから船内から布を持ってこい! 海に一滴でも血を落とさせるな!」
ダズマンの指示に躊躇する事無く従う快楽戦士達は急いで船内に入っていく。
既に四人の集落の人間達を斬首した快楽戦士達は一人一人がシャツを脱ぎそのシャツで生首を包むとヨシュアの後に続いていく。
セントオーシャン号の甲板の上では至る所に斬首した時の集落の人間の血が飛沫し流れ、その度に快楽戦士達が自らの服を破り甲板の上の帯びたたしい血を拭いていく。船内に入った八人の快楽戦士達は、乾いた雑巾や寝室にある毛布やカーテンを持ってくる。
度々、快楽戦士達が布で拭いている最中、集落の人間達に襲われそうにもなったが、直ぐにフォローする仲間のお陰で、大事には至らなかった。
「おい、上はどうなってんだ⁉」
船内に入ったヨシュアに仲間を憂慮していた砲撃手の一人が語気を強める。
「僕たちは今、分岐点にいる。この首を砲弾の変わりに撃ってくれ。それで終着駅がリンダルトになるかが決まる」
ヨシュアから手渡された物を受け取ると砲撃手は一体何か? と中身を確認するため上着をを少し捲りそれが生首だと分かると思わず声を上げた。
戸惑う砲撃手だったが、ヨシュアの険しい表情に、すぐに気持ちを切り替え上着に包まれている生首を大砲に装填する。
後から来た快楽戦士達も手にしている生首を砲撃手達に手渡していき、急いで生首を大砲に装填する。
「こんなの奴らの船に当てるのか?」
いざ生首をワロス達の船に向かい撃とう、と思うと、躊躇してしまう砲撃手達。
「狙うのは奴らの船の近くの渦潮だ!」
「ああ、分かったよ! とにかくお前らぶっ放せ!」
ヨシュアの意図が理解できないまま砲撃手達は、半ばやけになりながら点火薬に火を付ける。
大砲音が船内に響き渡りながら、放たれた集落の人間達の五つの生首。ワロス達の船の近くで包んでいた上着や布が捲れると、そこから白目になりながら絶叫しているかのような表情の生首がワロス達の船の近くの渦潮に着水する。
「ワロス首領。これは少々まずいことになりましたぞ。虞肉の策ではありますが、奴らの中に頭の切れる者がいると言うより度胸のある者がいるようです」
ワロスの側近の男はすぐにヨシュアの策を見抜き、船の上から渦潮を覗き込む。
「気にする事は無い。こちらに傾いていた勝利の天秤が奴らと公平に釣り合っただけだ。だが、公平に釣り合ったと言っても、その天秤は我らの手中にある。畢竟、我らの激レースでしかないと言う事だ。フッフッフッフッ」
異変を目の当りにしても心が揺らぐ事なく、不敵に笑うワロス。
まるでこの戦いの終末を予期しているかのような反応。
そして、ワロス達の船の近くにある渦潮に集落の人間達の生首が激流に呑まれながら浮上してきた。
その首元から溢れる血は渦潮を赤く染めていくと、すぐに背ビレのようなものが姿を現す。
更に八つの背ビレが渦潮から姿を現す。その群がった背ビレの正体は鬼鮫だった。
四散している生首に一斉に噛ぶり付く九匹の鬼鮫。
更にセントオーシャン号から五つの生首が大砲で放たれワロス達の近くの渦潮に着水する。
九匹から十一匹に増えた鬼鮫は荒々しい動きで次々に生首を捕食していく。
捕食し終えると、迷う事無くワロス達の船に鋭利な刃物のような背ビレをぶつけてくる。
そこに餌場があると言う事を本能的に理解しているのだろう。
ワロス達の船が一度に負う損傷は剣で付けた傷とは訳が違う。抉り取るような深々とした致命傷のような傷を付けられていく。
十一匹の鬼鮫は休む事無くワロス達の船を切り刻んでいく。