6章 まだ見ぬ快楽のために 5話
「とにかくそいつらを船から落とせ! こんな所で殺してもこの場で息を吹き返すだけだ!」
「駄目だダズマン! ここいらは鬼鮫のたまり場だ! ここいらの海で死ねば安全地帯で生き返る場所はセントオーシャン号の甲板の上だけだ! それにこの船の近くの海で血なんて一滴でも落とせば鬼鮫は餌場があるこの船を切り刻む! 渦潮だろうと鬼鮫は容赦なく襲ってくるぞ!」
鬼鮫とは、イルメン島に向かう時にランスを斬り刻み捕食した鮫の事である。セントオーシャン号の近くの海で死んでも意思のないブラックライフオブフォッグは安全地帯が一番近い場所を選ぶ。つまりセントオーシャン号である。
応戦しながらダズマンの指示をランスが制止させる。
その話を聞いた快楽戦士達は集落の人間達を斬り捨てる事を躊躇してしまう。
セントオーシャン号の甲板の上で血を流し、一滴でも海に落ちれば鬼鮫に船を襲われる懸念が脳に強く刻み込まれてしまった。
「いっそ、俺らも奴らと同じ方法で奴らの船を攻め落とすか?」
「駄目だ! そんな事をすれば奴らの思うつぼだ! ワロス達の船の近くで死ねば生き返る場所はワロス達の船の甲板の上だ! もうここには戻ってこれなくなる!」
ランスの策は軽率だ、と指摘したヨシュア。
追い打ちをかけるようにワロス達の船からまた集落の人間達が放たれてきた。負けずと砲弾を撃ち返すセントオーシャン号だったが、二発着弾してもワロス達に危機感は感じない上、船も未だ安定していた。
既に勝利を確信したかのような喝采がワロス達の船から聞こえてくる。
欄干の隅にまで飛ばされた集落の人間達は目を血ばらせながら起き上がる。集落の人間達計、十八人がセントオーシャン号の甲板の上でタルワールを快楽戦士達に向け振り回す。
パーラインも奮戦するが、危険な懸念があるため攻め倦んでいた。
そこで集落の人間達十八人は、急に舵の方に向かってきた。道を作るように快楽戦士達に斬りかかり始める。
まるで目的を果たす条件が揃ったかのように一致団結していた。
その違和感に誰よりも早く気付いたヨシュアが口を開く。
「ダズマン! そいつらは舵を奪って渦潮の中央に突っ込む気だ!」
「お前ら舵を守れー!」
ヨシュアの警告にダズマンは疑う事なくすぐさま快楽戦士達に指示を出す。
集落の人間達はセントオーシャン号の舵を掌握するために数で押し切ろうとしていたのだ。このままワロス達の船から集落の人間達が放たれ続けると、セントオーシャン号はその重さに耐えられなくなり、沈没するか、舵を取られてしまう。ワロス達の作戦は単純に数で押し切ろうとする物だったが、その手段は常軌を逸していた。
「くそっ、このままじゃ防戦一方だ。ヨシュア! この中じゃお前が一番機転が利く! 何か打開策はないか⁉」
ダズマンの熱望にヨシュアは逼迫した表情でワロス達の船を見ながら必死に思案する。
渦潮、鬼鮫、ワロス達の船から放たれる集落の人間達。待っていれば渦潮に飲み込まれるセントオーシャン号をわざわざ追いかけてきたワロス達の狙い……。
揃う事の出来なかったパズルのピースの絵をヨシュアは天才画家が手掛けたような奇抜な発想でそのピースの絵を斬新で残酷な絵柄に仕立て上げた。