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6章 まだ見ぬ快楽のために 4話

 船内に入り大砲を撃つために砲弾を装填する砲撃手達。


 大砲は計五台。相手の船に大打撃を与えるには十分な数である。


 「船を渦潮の流れに乗せろ!」 


 大砲をワロス達に向けるだけでなく、渦潮の流れに乗せる事により少しでも(うず)(しお)(りょく)に船が取られないようにする。


 ダズマンの適切な指示に()(びん)に動く(かい)(らく)(せん)()達。


 セントオーシャン号が渦潮の流れに乗ると、ワロス達の船も同じく渦潮の流れに乗る。


 ワロス達の船では甲板の上で大筒の砲撃台がセントオーシャン号に向け六台並んでいた。


 「そろそろ撃った方が良いんじゃないか?」


 「駄目だ! もっと引き付けるんだ! 僕が指示を出す!」


 (かい)(らく)(せん)()の一人が、張り詰めた戦いの場の空気に呑まれ、いても立ってもいられず船内に行って砲撃をさせようとするようなニュアンスの言葉にヨシュアは強く呼び止める。


 「ゾディア! お前はヨシュアの合図を船内に伝えろ!」


 ダズマンとヨシュアは互いに頷き合うと、ゾディアが船内に入り階段の位置にまで走り出した。


 「……まだだ、まだだぞ」


 ヨシュアは撃つタイミングを計る。その目は普段のヨシュアならする事のない獲物を捕らえるハンターの表情。


 まだか、まだか、と闘争の時を待つ(かい)(らく)(せん)()達の形相はまさに戦士だった。


 互いの船が渦潮の中心にまで飲まれるのに百メートルを切り、落雷が鳴った瞬間。


 「撃てー!」


 「撃てー!」


 ヨシュアの合図にゾディアも船内にまでその声が伝わるように叫び出す。


 セントオーシャン号から五つの大砲の音が鳴る。空中に放たれた五つの砲弾が空を切り、ワロス達の船へと飛んでいく。


 五発中、三発がワロス達の船に着弾する。しかしそこからは悲鳴などではなく未だに()(えつ)の声が聞こえてくる。


 「あの野郎ども、やっぱりイカレてやがるぜ!」


 ダズマンは舌打ちをし苛立っていた。


 「装填急げ!」


 ゾディアの指示に「うるせえ! わかってらあ!」と砲撃手達は声を荒立てる。


 砲撃手達もワロス達の()(きょう)(しょう)(りょ)に駆られていた。


 二発目を砲撃しようとした瞬間だった。ワロス達の船から砲撃音が聞こえてくる。


 ヨシュア達は衝撃に備えその場で伏せた。


 甲板で何かにぶつかった鈍い音が響きわたる。砲弾が当たったにしては爆音や爆風が一切感じられない事に奇妙な違和感を感じたヨシュア達。音のした方向に目を向けてみると。


 右端の(らん)(かん)に集落の人間達六人が横たわっていた。ワロス達の船から砲撃されたのは砲弾ではなく人間だったのだ。


 集落の人間達からは黒い煙が蒸気のように上がっていた。


 しかし、それはブラックライフオブフォッグではなく、放たれた時の大砲の火薬だった。


 その光景を目にした全員は理解が追い付かず、目を大きく開き呆気に取られていた。


 その(かん)に横たわっていた集落の人間達が不気味に笑いながらタルワールを握りムクリと起き上がる。


 身体は至る所、傷だらけだった。


 「……こいつら、どれだけ狂ってるのよ」


 あまりの奇行に身の毛がよだつパーライン。


 「うおおー!」


 集落の人間達は傷を負ったまま、狂喜の雄たけびを上げタルワールで無差別に斬りかかってきた。


 「総員、戦えー!」


 ダズマンの指示に(かい)(らく)(せん)()達は正気を取り戻し、剣で迎え撃った。


 更にワロス達の船から六発の砲撃音が聞こえてくると、またもや(らん)(かん)にまで集落の人間達が砲弾の変わりに放たれると数秒も経たずに起き上がり奇声を上げタルワールで(かい)(らく)(せん)()達を攻撃してくる。


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