6章 まだ見ぬ快楽のために 1話
「出航するぞ! 急げ!」
ジェイル達と別れたヨシュア達は無事にセントオーシャン号まで辿り着けダズマンの指揮の下で出航の準備をしていた。
暁闇は過ぎ、辺りは明るくなっていた。
帆を張り抜錨したセントオーシャン号は進路をリンダルトに向け全速前進した。
船が出た直後、森から集落の人間達十人が砂浜に現れた。
それに誰よりも早く気付いたパーラインは砂浜にいる集落の人間達に警戒心を向ける。
集落の人間達は手にしていた弓でセントオーシャン号に向け矢を放ってきた。
「伏せて!」
パーラインが鋭い声で指示を出すと全員が甲板の上で伏せる。
と、思いきや十人の快楽戦士達が両腕を広げ自ら矢に当たろうとする。その中にはゾディアとランスの姿もあった。
それを肉眼で確認したヨシュアは「よせ!」と快楽戦士達十人に警告する。
飛んできた矢はセントオーシャン号の甲板に突き刺さった。
そして、自ら矢に当たりに行った快楽戦士達二人に胸部や腕にその矢が突き刺さる。
「なんだ、この程度かよ」
その二人は余り感じなかった快楽に不満の声を漏らす。
「……いいなあ」
快楽を感じたかった残りの快楽戦士達は矢が突き刺さった二人の快楽戦士達に羨望の眼差しを向け、親指を口に加える。
「あんた達、何考えてるのよ!」
パーラインは激怒しながら矢に刺さった快楽戦士達に近づいていく。
「別に良いだろ。凱旋の最後ぐら良い思いしたって」
パーラインに侘びを入れる様子も無く微笑しながらシャフトを握り矢を引き抜こうとする快楽戦士の二人。
しかし、矢を抜こうとした二人の快楽戦士達二人の身体に異変が起きる。
目が虚ろになり、視点が定まらなくなっていく。
身体も弛緩し足腰もよろつき始める。
矢に刺さった二人の快楽戦士達が甲板の上で倒れ突っ伏せる。
「やっぱりか」
まるで矢に刺さった二人の快楽戦士達が倒れる事を予期していたヨシュアはその二人の元に駆け付ける。
「どういう事、ヨシュア?」
「さっき僕達を眠らせた麻酔針と同じだよ。矢にそれと同じ成分を付けられてたんだ」
パーラインとヨシュアの張り詰めた会話を聞いた残りの快楽戦士達は動揺する。
捕まった恐怖の余波が消えていなかった。いくら快楽戦士と言えど、本気で廃人化になりたい者などいないのだから。
「何を動揺しているんだお前達。ただ眠らされただけだ。さっき捕らえられた事なんて引きずるな。俺達は誰一人として欠けていない。そうだろ!」
ダズマンは場の士気を下げまい、と快楽戦士達に檄を飛ばす。
快楽戦士達は互いの顔を見て「そうだな」「ああ、そうだ。俺達は誰一人欠けていない」と励まし合っていた。
ヨシュアとパーラインも自分達が無事でいた事を改めて思うと、安堵し互いの顔を見て微笑み合い無意識に抱き合った。
「おうおうお二人さん、お熱いねー」
快楽戦士の一人がニヤニヤしながらヨシュアとパーラインを揶揄すると、他の快楽戦士達も哄笑したり指笛を吹く者などがいた。
ヨシュアとパーラインは慌てて離れ、「ちょっと、からかわないでよ!」とパーラインは頬を紅潮していた。
セントオーシャン号は波濤に打たれながらも暖かい空気で満ちていた。
「イルメン島の左舷から船が出てきたぞ!」
帆柱の見張り台にいる一人の快楽戦士が叫び出した。
全員が急いでセントオーシャン号の船尾に集まりイルメン島の左舷を確認する。
そこからはセントオーシャン号の三倍の大きさはある船がセントオーシャン号の四百メートル離れた所を進んでいた。