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5章 偽りの栄光と繁栄 4話

 「まあ、客は客でも珍客って所かね。坊や、地獄から来た人間だろ?」


 突然の指摘に顔をギョっとしたジェイル。


 「やっぱりそうかい」


 ジェイルの顔色からアタリだ、と判断した長身の女は、落ち着いた様子でテーブルに設置されている木箱から()(まき)を取り出し火を点け、安らいだ表情で()(まき)をふかしていた。


 「なんであんたにそんな事が分かるんだ?」


 指摘された事に慌てるジェイル。


 「こっちは(なん)(じゅう)(まん)(ねん)と生きているんだ。顔色を伺えば大抵の事は分かる。それからあたしは、あんたじゃなく、ニイナ・メルヘンだ。ニイナ姉さんと呼びな」


 外見と名前のギャップに思わず鼻で笑ったジェイル。


 すると、ニイナは眉間に皺を寄せ、凶変した表情になり、葉巻を投げ捨て、テーブルを両手で握り、前方にいるジェイルに向け、ひっくり返してきた。


 (きょう)(がく)するジェイルの頭上のギリギリを物凄いスピードで大きなテーブルが飛んでいった。


 ジェイルは背後で破損した大きなテーブルを見て思わず生唾を飲み込む。


 ニイナの腕力に冷や汗をかきながら()(ぜん)とするジェイル。


 「いいかい、次にあたしを馬鹿にしてごらん。あんたを材料に新薬を作ってやってもいいんだよ? 今この場で」


 いつの間にか音も無くジェイルの背後に立ち、顔を近付けてくるニイナ。


 その表情は女性とは呼び難い、獰猛な獣だった。


 「ああ、 すまなかった‥‥‥に、ニイナ姉さん」


 ニイナの人間離れした腕力と威圧感に、すっかり小心となってしまったジェイルは恐々(こわごわ)と口にする。


 「分かればいいんだよ。イヒヒヒヒッ」


 ジェイルの頬をペチペチと軽く叩き不気味に笑うニイナ。


 背筋に悪寒を走らせていたジェイルは、無理に愛想笑いする。


 そんなジェイルを見たニイナは不気味な笑みを浮かべたまま近くに置かれている蛇口が付いている(たる)に近づいていく。


 すぐそばに置かれている透明なコップを手にし、タルの蛇口のハンドルをひねる。


 すると、そこから赤い液体が出て来た。


 ジェイルはそれがワインなのか? と思ったが、ワインにしてはトロリとした液体にも思え、普通のワインの色よりも黒味掛った色をしていた。


 もしやと思ったジェイルはそれがワインではなく、人間の血なのではないか、と連想していた。


 それを連想した時、ジェイルは生者(せいじゃ)の血ではないか? と脳裏を過っていた。


 ジェイルの目は血走り、その赤い飲み物に釘付けになり、心臓の鼓動も激しく高鳴っていく。


 「――それは、生者(せいじゃ)の血か⁉」


 動揺しながら口を必死に動かすジェイル。


 こんな所で手に入るのか、と思うと、聞かずにはいられなかった。


 「あんた、生者(せいじゃ)の血を知っているのかい⁉」


 ニイナは飲みかけていたコップから慌てて口を放し、驚いた表情でジェイルに目を向ける。


 「ああ、俺はそれが欲しくて、天使界(てんしかい)に来たんだ」


 ジェイルはニイナにゆっくり近づき、ブルンデのいる場所が記されている地図を懐から取り出しニイナに見せた。


 「‥‥‥珍客とは思っていたけど、まさか、ここまでの珍客とはね」


 地図を手にしたニイナは、かなり驚いた様子だった。


 「ニイナ姉さんはこの地図を知ってるのか?」


 ジェイルはニイナが地図の事を自分以上に理解しているのか? と思い身を乗り出すように聞いてみた。


 「この地図はね、ブルンデの所と持ち主を常にリアルタイムで描写する物なのさ」


 地図を睨みつけるように見ながら説明するニイナに地図の事を理解したジェイル。


 「こいつを渡した奴は、アランバって言う、そそっかしい発明家じゃなかったかい?」


 何故かアランバの名前を言いだすと不機嫌になるニイナ。


 「ああ、そうだが、アランバを知ってるのか?」


 「やっぱりかい! あのクソ発明家め!」


 ニイナは激怒し、その場で床板に向け、何度も強く()(だん)()を踏む。


 踏みつける度に、家全体が大きく揺らぎ、今にでも崩れ落ちそうになっていた。


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