4章 異常者 14話
そしてガーウェンの話は続く。
「だがその制圧も失敗に終わった。地獄の人間があまりにも多かったからだ。おまけに死んでも死なない不労不死の身体、致命傷の傷を受けても快楽を感じ、再び狂喜して立ち上がる。奴らはそれを肌で感じ制圧を断念したのさ。昔の天使界は穏やかだったが、今となっては私利私欲に塗れ、民を傀儡としている。イルメン島の連中とは別の意味でイカレてるがな」
とてもではないが天使界、つまり天国のイメージとかけ離れた幽界の地にジェイルは理解が追い付かなかった。
かと言って、ここで逃げ出すわけにはいかない。一度イルメン島で騒ぎを起こしているため、今まで以上に警戒は厳しくなるだろう。そうなると、島にすら上がれない可能性は高いため、今のチャンスを逃すわけにはいかないジェイル。
そう考えながらも目的地に着々と進んで行った。
すると、ふと声が聞こえてきた。
「そう言えば奴ら一体ここには何の目的で来たんだろうな?」
順調に進んで行っていたと思いきや、近くに集落の人間達がいた。
ガーウェンは右手を上げジェイルに動きを止めるように指示を出し、その場でしゃがむ。
集落の周辺を巡回している人間達が五人で回りを警戒しながら槍を手にし雑談をしていた。
「この土地が欲しくて、のこのこやって来たんじゃないのか」
「だとしたら今度こそネクロ・ラズエル様の生贄にしてやらねえとな」
集落の人間の一人がそう言うと、手にしている槍を振り回し、ジェイル達を生贄にしてやる、と息巻いていた。
その近くに何故かワンポールテントが張ってあった。中からぼんやりと光が放たれ二人の人影のシルエットが映し出されていた。
「あなたっ! もっと、もっと来て! ああっ!」
「分かってる! お前も、もっと来い! うおおぉ!」
男女の二人の、いかがわしい喘ぎ声がそのテントから聞こえてくる。
ジェイルは何事か? と思いそのシルエットの動きを観察してみると、性行為かと思いきや、手に刃物のような物を持ち、お互いを刺しあっている様子だった。
テントにいる二人は互いを傷つけ合い、快楽を感じ求め合っていた。
「あれも、一種の夫婦の営みなのかもな」
ガーウェンは小声でそう言いながらにやけていた。
笑みを浮かべるガーウェンと違い、悍ましい光景に見えたジェイルは、引きつった顔で一歩、足を引いてしまう。
しかし、その足を引いた先には小枝が落ちており、その小枝を踏んでしまったジェイル。
――パキッ!
いい音で響き渡る小枝の折れた音で集落の人間達はジェイル達のいる方に目を向ける。
「誰かいるのか!」
巡回している集落の人間達が槍を向けジリジリと歩き距離を詰めてくる。テントに居た男女の二人も血塗れになりながら慌てて出て来た。恰好からしてあの二人も集落の人間達だ。
「走るぞ、ジェイル!」
ガーウェンがそう声を上げるとジェイルも透かさず立ち上がり、先に走り出したガーウェンの後を追っていく。