1章 地獄の世界 1話
あれから、どれだけの時が経ったのだろうか。数分、数時間、数年?
ジェイルは深い深い闇の深海にでも飲み込まれていくような感覚だけを感じる。
時の流れも、自身が生きているかさえも、感じずにいた。
そして、死んだはずのジェイルだったが、何故かは分からないが、いつからか自分に意識がある事を自覚し始める。
(何で俺の人生はこうも……クソッ! クソッ!)
もうどうでも良かったと思えるような人生だったが、それでも微かな光を求め懸命に生きてきたジェイル。
しかし、唐突に迎えた死は納得も理解も出来ず、ジェイルの脳裏には黒いフードの男の幻影が不気味に微笑むのを感じる。
悲哀と怨嗟に身を委ねていると、ふと、背中からどこかの地面に、着いた感覚がした。おまけに、周囲から喧騒がする。突然の事に我に返るジェイルは一体何事か? と思い、重く塞いでいた目を開ける。
すると、そこは薄暗い外だった。
未舗装の砂利道に何軒か古臭い木造の建物。まるで西部劇のような世界観だった。
周囲の人間は酒瓶や剣などを振り回し暴れ回っていた。
少し離れた所で哄笑しながら他者を斬り付け、斬られた者はまるで快楽にでも浸っているかのように悶えていた。
温度が感じられず、常に悪寒が走るような、ゾッとした瘴気が漂っているかのようだった。
目の前でナイフで刺された男はその場で倒れ身体をピクピク痙攣しながら喘ぎ声を上げている。
互いが互いを傷つけながら狂ったかのように哄笑する者も居る。
思わず息を呑み込み一変した世界に驚愕し勢いよく起き上がるジェイル。
「なっ、何だ、ここは⁉」
困惑し、右往左往するジェイルに、一人の厳つい男が近づいてくる。
「へっへっへっへっ、見た事ねえ顔だな。さては新入りだな」
不気味な笑いで近づいて来たその男は、片手に斧を握りしめていた。
ハッキリと目に見える恐怖にジェイルは足が震え始め、顔が青ざめていく。
デジャブを感じるジェイルだったが、それはまるで走馬灯のようにも感じた。
一体、何がどうなっているんだ? と思いながらもジェイルは思考を働かせようとしたが、その思考も恐怖に刈り取られていた。
そして、厳つい男が下劣な笑みで何の躊躇も無く手にしていた斧を ジェイルの首目掛け振り回した。
ジェイルはその動きが目で追えていながら、未だ、その恐怖に抗えず、指先一つ動かせずにいた。ただ、ただ、瞳だけが、大きく見開く。
―—ズバッ!
聞いたことのない耳障りな音。
そして、ジェイルの首は地面に落ちた。そのジェイルの顔からは恐怖が腹の奥底から湧きだしていたのが窺える。
斬首されたジェイルの首から感じた事もない異常な快楽が襲い掛かるが、それも瞬時に終わりジェイルは死んだ。
それにしても目の前で人が殺されたと言うのに周囲の人間達はまるで日常茶飯事かのように気にも留めていない。それどころか毎日お祭り騒ぎかのようにはしゃいでいた。
異様な光景がここでは異様ではなく。日常と言う感じが嫌でも伝わる。
そして、死んだジェイルにはそんな事を考える事は出来ない。
しばらくすると、寝惚け眼を擦るジェイル。
そこから五秒程たつと、ジェイルはある違和感を感じた。
(いや待て! 変だ! 俺は首を切断されたはずだ。なのにどうして、手が動く、足の指先にまで感覚が伝わるんだ⁉)
ジェイルは事の重大性に気付き、上半身を起き上がらせ辺りを見回した。