4章 異常者 13話
ヨシュアの後ろでパーラインは儚げな瞳で立っていた。
「ヨシュア。貴方が私のためにこの苛酷な地獄から抜け出し天使界に連れて行こうとする気持ちは理解できているし、本当に嬉しく思っているわ。でも今は貴方の身体が心配なの。天使界の入り口の場所は分かっている事だし、出直しましょう」
心配してくれるパーラインの暖かい気持ちがこもった言の葉に、ヨシュアは我に返ったかのような反応をした。そしてヨシュアはパーラインを見つめ始め、言葉は掛けず強く抱きしめパーラインもそれに応えるかのように強く抱きしめ返す。
「なんて吐き気がする程、甘ったるい光景なんだ。なあジェイル?」
辛辣に見守るガーウェンは小声でジェイルに語り掛ける。
「だな」
そして、ジェイルはパーラインが気に入らないせいか本当に吐き気がしそうになっていた。
「話は決まったな。そろそろ行くぞ。ダズマン。後の事は任せたぞ」
「分かりました総督。ご武運を」
頃合いと見たガーウェンは全員に指示を出しジェイル達は二手に分かれて進んで行く事にした。
船の方は船長代理と言う事でダズマンに託された。筋骨隆々で剣闘士のような風采は誰よりも威厳があるように思えた。ガーウェンの決断に文句を言う者は誰一人としていなかった。
パーライン達と離れ三分程経っていた。ジェイルとガーウェンは隠密行動のような動きで森を進んで行く。
「そう言えばさっき、天使界に行ったら殺されるって言ってたが、ありゃどう言う意味だ?」
「天使界では地獄の人間は、文字通り罪人だ。そんな奴が天使界にいたら消したくなるのは当然の摂理だ。天使界の住民は欺けるが、兵士達から上の階級の奴らは欺けない。奴らには意思があり嗅覚も鋭い。地獄の人間は天使界では異臭を放つからな」
所々、理解しがたい説明をするガーウェンに首を傾げるジェイル。
「どう言う意味だよ?」
「とにかく俺の指示に従えば、お前の目的の場所に辿り着ける可能性が高まるって意味だ。それとも今から尻尾を巻いて逃げ出すか?」
前を歩くガーウェンは陰険な表情でジェイルに視線を向ける。
「……分かった。このまま行く」
他に選択肢がないジェイルはガーウェンの嫌味に悄然としてしまった。
だが、ブルンデの所に辿り着く前に殺されても、また安全地帯に戻り復活できるのでは? と脳裏を過るが、何か嫌な予感がしたジェイル。
ガーウェンの言葉を全て理解できたわけではないが、とにかくジェイルにとって頼みの綱は、アランバから貰ったブルンデの地図とガーウェンだった。
「それにしても麻酔針で俺達の動きを阻止するとわな。だがあれが最も効率よく、地獄の人間を捕縛するのに向いている。ジェイル、お前もこの先はああゆうのに気を付けろ」
意識を鋭く研ぎ澄ませ警戒しながらガーウェンは横にいるジェイルに警告する。
「ああ、それより何で天使界の道がこんなイカレタ奴らの島にあるんだ?」
ジェイルはガーウェンの警告を素直に受け入れながらも首を傾げる。
「大昔にあんなイカレタ連中はイルメン島には居なかった。だがこの島は遥か昔から天使界と地獄を繋げる隠し通路のようなものがある。そしてその理由は天使界の奴らが地獄を制圧する目的のために、ここを拠点にしようとした。島のように隔離した場所は天使界の奴らからして見れば外敵を阻むのに都合がいいからな」
茂みの中をかき分けながら淡々と話すガーウェン。