4章 異常者 12話
生前でも特に身に覚えがない。パーラインとはコロッセオで会うのが初対面のはずだ。
緊迫した空気の中、ヨシュアがゆっくりとパーラインに寄り、妖魔の剣が握られている手にそっと優しく手を置いた。
「やめてくれパーライン。今ので大体分かったよ。君が彼に怒る理由はあの事なんだろ? でも彼に罪は無いはずだ。それは君自身が一番よく分かっているはずだ」
ヨシュアはパーラインを落ち着かせるため同じ目線に立ち、言の葉に優しさを込めて伝えた。
「‥‥‥」
数秒沈黙したパーラインは下唇を噛みながら妖魔の剣を腰に収め、ジェイルの妖魔の剣を足で蹴り、地面に埋まっている剣柄を掘り起こした。そしてジェイルの妖魔の剣の刀身の横を摘まみジェイルに渡そうと手を伸ばす。
その時のパーラインは顔を横に向けジェイルに視線を合わせないようにしていた。
「‥‥‥後できちんと説明してもらうからな」
ジェイルは怒りを含んだ言葉でそう伝え、妖魔の剣を受け取った。
ヨシュアは真剣な眼差しでジェイルを見つめてパーラインの変わりに強く頷いた。
「お前ら早くしないと奴らに気付かれるぞ」
ジェイルは自分の縄を切りながらガーウェンの注意の言葉を耳に入れる。
そして、ジェイルも無事脱出し、他の快楽戦士達もパーラインと同じ方法で助けていった。
しかし、ガーウェンだけは相変わらず、刀身を握り地面から引き抜き、自分を傷付けては性欲を満たすようにして快楽を感じていた。その度に恍惚な表情で喘ぎ声を口から漏らしていた。
ようやく全員、助け終わるとガーウェンが帰路を探すため、指を舐め風に当てセントオーシャン号の位置を特定しようとしていた。
「よし、この道だな。パーライン、ヨシュア、お前達はあいつらに付いて行け。ジェイル、お前は俺とこっちに来い」
ガーウェンは二手に分かれさせ、快楽戦士達にセントオーシャン号の道の指示を出した。
「待ってくれ、君達はどこに行くんだ」
疑問に思ったヨシュアは首を傾げガーウェンを呼び止める。
「これからジェイルと天使界に行く。お前らはリンダルトに戻ってろ」
ガーウェンの言葉を聞いたヨシュアは飛び跳ねるように驚いた。
「なら、僕も連れてってくれ! 僕はそのためにここに来たんだ!」
必死にガーウェンに懇願するヨシュア。
「天使界はお前が思っているような所じゃない。天使界が安全と分かればパーラインを連れて行こうという魂胆なんだろうが、地獄の民になった以上、天使界とは相容れないと思え。お前はこの先どう足掻いても、天使界では殺される運命だ。」
「じゃあ、君たちは何故、天使界に行くんだ? 納得できる理由を言ってくれ」
ヨシュアは切羽詰まった表情でガーウェンに問い質そうとする。
「ジェイルはある物を探すため天使界へ行こうとしてる。お前とは無縁の野望を果たすためにな。それにジェイルは、そのためになら命を捨てる覚悟がある。なあジェイル?」
ジェイルはギョッとした目でガーウェンに視線を向ける。
天使界がそこまで物騒な所とは予想していなかったジェイルは動揺を隠しきれずにいた。
「それにだ、パーラインはお前を探すためにやりたくもねえ試練を受けてまでここまで来たんだぞ。俺達に迷惑を掛けた尻拭いをするためにも、お前はここで退くべきじゃないのか?」
ガーウェンに正論を言われてしまったヨシュアはそれ以上の言葉は出てこなかった。