4章 異常者 9話
しかし、現状どうする事も出来ずジェイル達は八方塞がりだった。
何とか退路を探すため、ジェイルは周辺を見渡す。しかし‥‥‥。
「さてと、話はそろそろお開きだ。お前たちの悪あがきもここまでだ」
ワロスは右手を上げると樹木の葉から、フッ、と空を切る音が何カ所かでした。
その刹那、ジェイル達の首に小さい針が刺さる。
そして、首に針が刺されたと認識し、抜こうとしたその時には、酷い睡魔に襲われてしまう。
樹木の枝の上で葉に隠れていた集落の人間達が、ジェイル達の首に目掛け麻酔針を仕込んだ吹き矢を吹いてきたのだ。
意識が朦朧とし、膝を地面に付けるジェイル達を見たワロスは不敵な笑みを浮かべていた。
「じゃあな異端者共。これでお前たちはジエンドだ」
ジェイルは、寝てたまるか、と身体を奮い立たせようとするが、脱力感と睡魔に抗えないでいた。ワロスの薄気味悪い笑みをただ見ている事しか出来ず、その場で睡魔にやられ、地面へとゆっくりと倒れ、眠りに落ちた。
微睡の中を彷徨うような意識の中、ジェイル達が連れてこられたのは集落から少し離れた森だった。
足はロープで縛られ、樹木の枝の上から逆さで吊るされていた。その真下にはジェイル達各々の剣が地面に突き刺さっていた。剣柄を地面に突き刺し、切先がジェイル達の頭頂部に向け上へ向いている状態だった。
今までの悪夢のような現実を眠りの中で思い返していたジェイルは、意識を徐々に取り戻していき、その悪夢から現実へと、うなされながら帰ってきた。
辺りは既に暁闇で薄っすらと照らされた風景で広がっていた。
「起きたかジェイル」
横でジェイルと同じく吊るされていたガーウェンがジェイルに話しかけてきた。
「俺たち、生きてるのか?」
「何言ってんだ。もう死んでるだろ」
ガーウェンの言葉に、そう言えばそうだ、と自分が既に死んでいる事を思い出したジェイル。
頭に血が上るジェイルは、脳に程よい電流を流され思考が麻痺しそうな感じがし恍惚な表情になりかける。
「ジェイル。この声を聞いて分かるか? 僕だ。ヨシュアだ」
ガーウェンと話していると右の奥からヨシュアの声が聞こえてきた。
「そういえば、廃人化にならないで済んだんだったな。まあ、無事で良かったよ」
無償で助けに言った結果が、自分が樹木に吊るされてしまった、と言う事にジェイルはショックを隠し切れず、ヨシュアに掛ける言葉にも覇気が感じられなく、怠そうな声だった。
「こんな形で言うのもなんだけど、助けに来てくれてありがとう」
ヨシュアは覇気が感じられないジェイルの声から、それを察する事が出来なく、真摯に感謝の言葉を伝える。
「あんな奴に感謝なんてしなくて良いわ。それよりヨシュア、身体は大丈夫なの?」
すぐ近くでジェイルを冷たくあしらうパーラインは心配そうな面持ちでヨシュアの身を案じていた。
ジェイルは腹のそこからパーラインに呵責してやりたい、と思ったが、その気持ちを押し殺す。
並ぶ順で言うと、一番右端からヨシュア、パーライン、ガーウェン、ジェイル、そしてジェイルから左端まで快楽戦士達が吊るされている。
「ああ、僕はもう大丈夫だ。パーライン、君にも本当に迷惑を掛けた。」
ヨシュアとパーラインのお互いを気に掛ける気持ちに、ジェイルは心の中で、馬鹿馬鹿しい、と地面に唾でも吐き出したいぐらい嫌気がさしていた。
「それより早くここから抜け出さないと。‥‥‥その、パーラインが」
ヨシュアはパーラインの身を案じていた。と言うのも、パーラインはワンピースを着ている状態で逆さで宙吊りにされているため、スカートが捲れ、それを両手で押さえ、パンツが見えないギリギリの所で隠している状態だった。
「にしてもお前より早く目覚められてラッキーだったぜ。久しぶりに目の保養になった」
「この変態! クソ!」
不敵に笑い卑しい目をパーラインに向けるガーウェンに、パーラインは剣幕を突き立てて罵る。