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4章 異常者 8話

 そんな中、(かい)(らく)(せん)()の何人かとガーウェンは近くに落ちている火の付いたたいまつを手にしていた。


 ジェイル達は脱兎の如く走り抜け、森の中に入っていった。


 「このまま船まで行くぞ!」


 後方で走っていたガーウェンが声を張り上げ全体に指示を出す。


 「ジェイル! お前は俺と、――⁉」


 ガーウェンがジェイルに何か言いかけた時だった、前方から火の付いた、たいまつを手にし森を巡回していた集落の人間達と(はち)()わせしてしまった。


 ジェイル達はまさかの事態に目をギョっとさせた。


 そして、巡回していた集落の人間達も異変に気付きジェイル達を槍で威嚇し、睥睨(へいげい)してくる。


 その数は三十人。数ではやや劣るが、未だ目を覚まさないヨシュアを抱えた状態なうえ、集落の人間達の戦力は(かい)(らく)(せん)()達と引けを取らない。   


 手榴弾も無くなり、突破が難しい状況だった。攻め(あぐ)むのが目に見えている。


 拳銃の弾も残り少ない事もあり、(かい)(らく)(せん)()達はそこから攻撃が出来ずにいた。


 どうしたらいいのか? と悩んでいる内に、背後から広範囲にわたって(しげ)みを踏む音がしてくる。


 まさかと思ったジェイルは首だけを後ろに振り向けると、そこには五十人の集落の人間達が槍を手にし現れた。


 一人一人が険しい表情で、今にでも襲ってくるような気迫を感じる。


 「貴様ら、よくも好き勝手に暴れてくれたな。おまけに大事な儀式まで邪魔しやがって‥‥‥」


 そこで、ふと声帯(せいたい)が壊れているような、やたらと高い声が聞こえて来た。


 「ワロス首領。どうぞこちらへ」


 五十人の集落の人間達が敬意を込め、間を開き道を作ると、その変な声の主、ワロスは(だい)(たん)()(てき)様相(ようそう)で暗闇の中から現れた。


 厳つい人相で、(たい)()は普通だが髪はくせっ毛が強く、毛皮のマントを羽織(はお)り、一重の鋭い目をしたワロス。


 「そうか。そいつはすまなかったな。だが悪いがこいつは連れて行かしてもらう。代わりに‥‥‥こいつをやろう」


 そう言ってガーウェンは慌てる事なく、軽い足取りでゾディアの元に歩き、素っ頓狂の表情で指を差した。


 「――嘘だろ総督⁉」


 仰け反るぐらい驚くゾディア。


 「お前の汚ねえ()でバレたんだぞ。少しは責任を取れ!」


 コメディのような馬鹿げた会話のやり取りに、呆れ返る一同だった。


 「それには及ばない。一人と言わず、ここにいるお前らが、地の帝王、ネクロ・ラズエル様を蘇らせる儀式の生贄になれば済む話だ」


 ワロスは、ガーウェンの言葉など気にも留めずにいた。


 そして、聞いたこともないネクロ・ラズエルという者が如何(いか)に偉大かを表現するため、両腕を大きく広げ、信仰(しんこう)しきったかのような、尊い顔を空に向けて言う。


 それを聞いたジェイル達は、ワロスに対し、強い剣呑(けんのん)の眼差しを向ける。


 誰がどう見ても、イカレタ変な声の男だと認識してしまうのは仕方ない事だ。


 「そうか。ならそのネクロ・ラズエル様だかの、くだらない儀式のために生贄になった奴らの成れの果てが、この森で転がっている廃人化共って事か」


 森で廃人化していた人間達には今のヨシュアのように槍で衣服が破れ、そこから血を流した状態が一致する。それは集落の人間達の儀式によって遂行された結果が……廃人化である。


 「ネクロ様を()(ろう)するような発言は(つつし)め! あの廃人化共もネクロ様の供物になられて本望と言う物だ。それに大樹で吊るされている()(ほう)(もの)の奴らも、これからその崇高(すうこう)(いしずえ)になれるのだからな」


 ガーウェンの推測は正しかった。


 ガーウェンの指摘に(いきどお)ったワロスは、激怒したかと思いきや、にやけながら説明してきた。


 ワロスの気味の悪さにジェイル達は顔を(しか)める。


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