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4章 異常者 5話

 「そいつはな、(てん)使()(かい)の道を聞きたくて酒場に居た俺の元を訪ねて来たんだ。誰かが俺の事を教えたらしい。で、俺はこの島に(てん)使()(かい)の道があると言った途端、その先の説明も聞かずに飛び出していったんだ」


 パーラインの許可なくガーウェンは(ほっ)(たん)の一部のみを説明するが、ジェイルはそこにある疑問が脳裏に浮かぶ。


 「そう言うのは試練を乗り越えないと教えてくれないんじゃなかったのかよ?」


 身を乗り出すようにガーウェンに聞くジェイル。


 「酒が回っててな。勢いでつい言っちまったんだ。ハハハッ」


 侘びを入れる事なく、ガーウェンは呑気にそう答えると、ジェイルは呆れてため息しか出なかった。


 「とにかく奴は、リンダルトからここに来るには週に二度の調査船に密航するしか方法はない。ここに着いたのはいいが、奴らに捕まったんだろう」


 ガーウェンが冷静にその探し人の経由を推理するとパーラインはますます不安が(つの)り深刻な顔になっていった。  


 「おい、あれなんだ?」


 話を聞きながら目を凝らし集落の中を見ていたジェイルが、奇妙な物に気付きそれに指を差す。


 丸太ぐらいの大きさの木の(くい)が左右に二本ずつ打ち付けられ、その中央に白い布で全身を巻かれた人らしき者がその木の(くい)から伸びているロープで大の字に伸ばした手足を縛り上げられ、宙吊りにされていた。その人らしき者の身体に長い槍が八本、突き刺さっていて、その傷口からはおびたたしい血が流れていた。


 周囲には集落の人間達が正座でその吊るされている人らしき者に手をすり合わせ、目を(つむ)り、祈りを捧げていた。


 まるで何かの儀式に生贄を捧げているような(せい)(さん)な光景に目を奪われるジェイル達。


 「気味がわりいな」


 ガーウェンは冷ややかな目で呟く。


 すると、正座をした一人が立ち上がりその宙吊りにされた人らしき者にゆっくりと近付き、槍を一本、一本、丁寧に抜いていく。そして巻かれた白い布を頭から(ほど)いていく。


 その白い布から露わになった顔を見た瞬間、ジェイルはその顔に見覚えがあった事に気付く。


 「ヨシュア!」


 パーラインが身を飛び跳ねらせ驚き、近くの鳥が逃げ出すぐらいの大声で叫んだ。


 「ばかっ!」


 隣にいたジェイルはこのままでは気付かれる、と思い、パーラインの頭を掴み茂みの中に押し込むように伏せさせ、ジェイルを含めた全員が危険を察知し、一斉に伏せる。


 「今こっちから何か声がしなかったか?」


 「ああ、急いで探すぞ!」


 集落の人間達十人は、たいまつを手にしそれに火を付け槍を手にし、正面の入り口から迂回し、ジェイル達が居る西に向かってくる。祈りを捧げていた人間達も、手元に置いていた槍を手にし周囲を警戒する。


 「お前ら、動くなよ」


 ガーウェンが冷静に判断し、小さく鋭い声でジェイル達に指示を出す。


 見つかるのではないか、と言う恐怖心でジェイルの心臓の鼓動が耳にまで響くように聞こえてきて、額には冷や汗が溢れ出てくる。


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