4章 異常者 4話
まるで自分達の縄張りだ、と言う意思表示にも思える光景。
そして、ガーウェンが「行くぞ」と口にするとガーウェンが先導して歩き出し、ジェイル達は後続する。
横切る廃人化から、呻き声か、よがり声か聞き分けが付かないような声に、悍ましい気持ちを抱えるジェイル。
相手の領土が近い、と察したガーウェンは先程のように剣を使わず、少しでも音を抑えるため、手で茂みをかき分けていき、ジェイル達も同じようにかき分けていく。
そして、歩いて七分近く経つと、いくつもの篝火で照らされた大きい集落が見えて来た。主に木材で建築してる家や小屋が数多く建てられている。その周りを木の柵で囲んでいる。そこで一際、目に映ったものが、巨大な大樹だった。
その大樹の枝に何やらミノムシのような物が宙吊りでぶら下がっていたが、ジェイル達の距離からではそれがなんなのか、今は、はっきりと視認できずにいた。
しかもそのぶら下がっている数は五十を超えていて、その奇妙な光景にジェイルに悪寒が走る。
「ここからは、腰を低くして行くぞ」
ガーウェンが落ち着いた様子でカンテラの火を消すと集落の上に指を差しそう言った。ガーウェンの指を差す方向には木製で出来た十メートルの見張り台があり、そこに一人の看守らしき人が立っていた。手には槍が握られ、胸元と、腰から膝までの下半身を毛皮で隠すように着ている。まるで原始人のような格好だった。
幸いにもその原始人のような人は何やら下にいる人と話をしてジェイル達に気付いていない様子だった。
ジェイル達は気付かれない内に、茂みの中に身を隠そう、と中腰になり、息をひそめるようにして進んでいく。
そうやって集落にある篝火を頼りに近くまで進み、更に柵の周りをゆっくりと迂回して進んで行く。
「ここで少し覗いてみるぞ。ジェイル。パーライン。お前らも来い」
ガーウェンが小声でそう言うと茂みをかき分け、集落の西付近で止まり、柵の隙間を覗いてみた。
すると、辺りは先程の見張り台の人と同じ格好の老若男女が集落の中で生活している風景があった。だがその生活感には違和感があった。
農作業の仕事をしようと鍬を手にした男や、洗濯をしようと大量の洗濯物を抱えている女の人が歩いている中、何故か人間を乱雑に乗せた荷車を引いている男も居た。そして一番驚いたのが先程の大樹の枝に吊るされたミノムシは人型のサイズで、布で全身をグルグル巻きにされ首からロープを掛けられ宙吊りにされていた。
あれは人なのでは? と思うその五十以上の数にジェイルはぞっとして言葉が出なかった。
「‥‥‥何よ、これ」
パーラインもぞっとしたような表情でか細い声を出す。
「あれは人間だ。ああやって首で吊らせ続け、死体の状態で保存しているんだ。負傷箇所がない限り黒き(ブラック)命の(オブ)霧は機能しないからな。安全地帯に下りられないのさ。実に合理的な死体保存だ。何に使うかは知らないが、ここの連中は正気じゃないのは確かだな。とにかく今は奴を探すぞ。それでパーライン。奴はいるか?」
慎重な声でパーラインに聞くガーウェン。
「分からないわ。もしかしたら彼はあの吊るされている誰かって事、ないわよね?」
声を震わせながらパーラインは大樹で布で全身をグルグル巻きにされている人達に怯えた目を向ける。
「さあな」
「さあなですって。そもそも貴方がこの場所を彼に教えたりするからでしょ⁉」
パーラインは声をギリギリまで抑え、ガーウェンに鋭い視線を向ける。
「なあ、探し人って誰なんだ?」
発端を知らないジェイルは首を傾げながら会話の間に割り込みパーラインに聞いてみた。
「貴方に言う必要はないわ」
ジェイルに見向きもしないパーラインは冷たくあしらう。
頭にきたジェイルは、眉間に皺を寄せていた。