序章 始まりの弾丸 4話
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嘗てジェイルは、何一つ不自由のなかった豪勢な生活を送れていたが、ジェイルの生活は激変する
ジェイルの父親は様々な家電製品を販売する大企業の社長だった。人々の幸福を願うと言うコンセプトとして経営していた。しかし、ある日、順調だったはずの経営が一変する事態が起きた。
ある家族がジェイルの父親の会社で製造されていた電子レンジを使用して家で爆発が起きた。
電子レンジの内部に小型爆弾が仕掛けられていたのが原因だった。
そして、たまたま近くにいた中年の男性がその爆発に巻き込まれ、亡くなったのだ。
その後、電子レンジに小型爆弾を仕掛けた犯人は特定できず、ジェイルの父親はマスコミに追われ、遺族にも追われ、その責任を少しでも果たすためには辞任する他なかった。
しかし、それだけの苦悶では終わらなかった。ジェイルの母親は夫が辞任したのを知ると、早々に別れた。どうやら金銭が狙いで結婚していたらしい。
ジェイルの父親はまるで今までの生活が虚飾にまみれた、ただの飾りではなかったのか、と絶望し酒に溺れる日々が続いていた。あれだけ人の心に触れる優しい笑顔をする父親の表情は何時しか頬が垂れ下がり、皺の数が増えていく。
そんなある日、ジェイルの父親がジェイルを連れ自分達が住んでいるマンションの屋上に連れて来た。ジェイルはどうしたのだろう? と思い気鬱な父親の瞳に困惑していた。
「すまないジェイル。父さんはもう駄目だ。お前のためと思い、あれからも頑張ってきたが、あの 事件以来、未だにマスコミやあの被害にあった遺族の人達から責められている。だからお前にも迷惑を掛けるかもしれない」
ポロポロと涙を流していくジェイルの父親。
「本当にすまない……すまない」
ジェイルの父親は嗚咽を漏らしながら、何度も何度もジェイルに謝罪をした。
当時、六歳のジェイルにはその言葉の真意を理解できずにいた。
そして、その三日後、ジェイルの父親は高速列車に身を投げ出し自殺した。
ジェイルは、ただ、ただ、泣くことしか出来なかった。父親と母親を失い、身寄りの居ないジェイルは、孤児院に引き取られた。
そこからのジェイルは、完全に笑顔を失った。
学校でも高校を卒業してアルバイトの日々の中でも、笑顔は取り戻せなかった。
孤独に生き、目標も無く、支柱となる人も居ない。ただ、年月が過ぎていく。
そして、成人となり、生活費を稼ぐだけの生活。
ジェイルに生きる実感を与えてくれるのは、何も無かった。
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既に日付が過ぎていた事に気付いたジェイルは掛け持ちでしているバイトがその日の午前八時からだったのですぐに就寝する準備を始める。
部屋の灯りとテレビを消し、眠りに付こう、と布団に入る。
無音の中、眠りに付こうとするジェイルが耳にするのは、小さく鳴る自分の心臓の鼓動ぐらいだった。
「……いつになったら俺の人生は報われるんだ」
掛け布団を顔まで被せながら、消沈した様子で口にするジェイル。
ジェイルは嫌気が差すような貧困生活で、心にゆとりが持てず、短気な一面もあり、ネガティブな思考でもあった。
前向きになれない自分にうんざりしながら日々を送るジェイル。
布団に入り数分、経った頃だった。ジェイルのアパートに、こつこつ、と小さい足音が向かってくる。
ピンポーン、とジェイルの部屋にインターホンが鳴り響く。
ジェイルは「こんな時間に誰だよ」と不機嫌な表情で呟くように吐き捨てて、ふらふらとした足取りで玄関に向かう。
ドアを開けると、黒いフードを被った人物が立っていた。薄暗い玄関ではその人物の顔が視認できずにいたが、ジェイルは見えない不気味さを肌で感じた。
ジェイルは息を呑むようにして、その人物に声を掛けようと意を決したその直後、その黒いフードを被った人物は右手をジェイルの額にゆっくりと向ける。
ジェイルはいつのまにか見えない恐怖に追いやられていた。言葉を口にする事を忘れ、ただ、その右手を目で追っていた。
徐々に近づくその右手の甲からぼんやりと見えてきたのはドクロを十字架で刻んだようなタトゥーと……拳銃だった。
それを目にした直後、見えない恐怖は確かにジェイルの肌に突き刺さる。息をするのを忘れ、口を半開きにし、そのまま硬直していた。
――バン!
アパート全体に鳴り響く一発の発砲音と共にジェイルの額に小さい穴が開き、辺り一面に、赤い血が飛散した。
突き飛ばされたかのように、仰向けに倒れ込むジェイルは、即死だった。ジェイルの意識は現実世界から切り離された。
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始まりの弾丸はここまでです。
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