4章 異常者 3話
船灯に灯りを付け、上の見回り台から辺りを見回す快楽戦士の一人が島を見つけた。
「前方にイルメン島だー!」
快楽戦士の一人がそう叫ぶと、全員が前を見る。大きな砂浜の後ろに樹木が並び立った森、場景がジャングルのような島だった。
ジェイルは緊張感が高まりイルメン島に不安な眼差しを向けていた。
イルメン島に到着し錨を下ろし、一行はセントオーシャン号に見張り役を二人残し、小舟に乗り換え陸を目指す。また、さっき見たいな鮫がいるのではないか? とジェイルは辺りを警戒していたが何も起きる事無く陸に着き杞憂で終わった。いつの間にか復活していたゾディアが気にならなくもないが、そっとしておいた。
小舟から降りるとガーウェンは落ち着いた様子だが、パーラインはソワソワしながら森の方に目を向けていた。パーラインは探し人の事で頭がいっぱいだった。
「お前ら、ここからは警戒して進めよ。イルメン島の奴らは正気じゃないからな。何が起きるか分からねえ」
ガーウェンの圧力を感じる言葉にジェイル達は警戒心を今まで以上に高めていた。
そして、灯りを付けたカンテラを手にし、一行は砂浜を歩き出す。
開放感ある砂浜だったがとてもビーチなどしてみたいと思えるような感じが一欠けらも浮かんでこなかった。
それほど緊張した空気が張り詰めていた。
特に何も起きず、樹木の中に入るとそこはやはりジャングルのような所だった。無駄に長い茂みを先頭にいるガーウェンが剣で切りながら前を進んでいく。
樹木や地面にはムカデや蜘蛛が張り付いていた。ジェイルは顔を顰めながら我慢して進む。
「止まれ」
奇妙な違和感を感じ取ったガーウェンはジェイル達の前で手を横に伸ばし静止させる。
そして、ガーウェンは一人でゆっくりと前に歩き出す。ジェイル達が不安な様相でガーウェンの行き先を目で追う。そこは今まで通り、代り映えのしない樹木と茂みがあったが、ガーウェンがそこである物に気付いていた。
ガーウェンがジェイル達に手招きをして「こっちに来い」と小声で言ってきた。
一体何を見つけたのか? とガーウェンの所に行ってみると、その茂みの下に一人の若い男が仰向けで倒れていた。そして衣服が所々破れていて、その場所から乾ききった血が付いていた。生気を失ったゾンビのようだった。
「うわっ」
それを見たジェイルは思わず声を上げてしまう。
「うっ、うぅー」
死体かと思ったその男は生きていたが、まるで廃人化のようだった。
「こいつは廃人化している。それに辺りを見て見ろ」
ガーウェンの言葉通り、ジェイルは辺りを見回してみる。すると、そこには十人以上の男女の人間が所々で横たわっていた。中には足をロープで縛られ逆さで樹木の枝から宙吊りにされている者も居る。
「下手に触るなよ。トラップの可能性もあるからな」
周囲を警戒するガーウェン。
ジェイルは驚愕したが何とか声を出すのを堪える。横たわっている一人一人に注意深く観察して見ると、年寄りや若者などが、ジェイルの目の前で廃人化している男性と同じような状態だった。
「こいつら全員、廃人化しているのかよ?」
「どうやら、そのようだ」
静かに言葉を交わすジェイルとガーウェン。
パーラインや快楽戦士達も、廃人化している人間達に目が釘付けになる。
「なんでこんな所に廃人化している人達が居るのよ?」
パーラインは険しい表情で口にする。
「恐らく、この島を根城にしている奴らの本拠地が近いのかもな。そこで何かあったんだろう」
重く張り詰めたガーウェンの声にジェイルは生唾をゴクリと飲み込む。