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4章 異常者 2話

 「おい、どうした?」


 ジェイルはガーウェンが何に悩んでいるのか気になり聞いてみる事に。


 「さっきの話の続きだが、オキディスの奴が生前のお前を殺した事を前提で話を進めるとしたら、奴は間違いなく地獄に落ちているはずだ」


 罪を犯さなければ(てん)使()(かい)に、罪を犯せば地獄。幽界の地のシステムが正常なら、オキディスは間違いなく後者のはずだ。


 深みのある声で言うガーウェンは腑に落ちないという表情だった。


 「あいつがなんで(てん)使()(かい)にいるって話か? 確かにそれは俺も一番気になっていた」


 ジェイルは(しゅ)(こう)しガーウェンに視線を向ける。


 「しかも、(てん)使()(かい)ではそこに()(じゅう)(みん)や、神に付き仕える下っ端である兵士達、その上に隊長や幹部がいるが、オキディスの奴はその中でも神の右腕と神が認めた神官クラスだ。奴がなんの罪も無く善良な奴のまま死んだとしても、神官から兵士に至るまで、神が認めた者にだけなれる(せい)(しょく)に就くのは不可能なはずだ。」


 それだけだはない。ジェイルを殺したと思われるオキディスは少なくともジェイルより後に死んだと言う事になる。そしてジェイルは地獄に来て五カ月が経過していた。つまりジェイルより遅れて来たか、もしくはジェイルの死後、すぐにオキディスが死んだとしても五カ月足らずでそこまでの地位にいる事自体も不可能に近いはずだ。


 「どちらにしても普通じゃない事が、天使界(てんしかい)で起きている事だけは確かだ。オキディスの奴が(はい)(じん)()の人間を何に利用してるかもそうだが、奴がなにかしらの不正を働いているのは間違いないだろうな」


 ガーウェンは顎に指を添え俯き推理しようとしていた。


 (その不正に片棒(かたぼう)を担いだような事しといて何言ってんだ)


 ジェイルは少し呆れた目線をガーウェンに向ける。


 「話が変わるんだけどよ、なんで俺を牢屋に入れて廃人化を防ごうとしたんだ? 俺が廃人化になった方がオキディスとの取引でプラスになったろうに」


 もう一つ気になっていたジェイルはその疑問を思いつめた表情で口にする。


 「俺はオキディスの奴が気に食わなかったんだ。そんな奴の為に尽力するような事はしたくねえ。実際にリンダルトには廃人化の人間は腐る程いる。お前を助けた理由はこれ以上、リンダルトを廃人化で埋め尽くさないためだ。廃人化でしかいない世界なんて()()(かん)(そう)としか言いようがない。俺の部下達もそうはさせまいと組織として廃人化を防ぐ活動もしている」


 どうやらガーウェンは、わざと廃人化を渡す数を制限し、()つ地獄を退屈させないため、(こう)()で廃人化を()(ぜん)に防ごうとしていると言う事だった。


 そして、オキディスに廃人化を引き渡す数も故意(こうい)で制限していると言う。


 勝手気ままなガーウェンだが、どこか憎めない印象に思えてきたジェイルだった。


 それから少しの間、雑談しているとガーウェンは(ふところ)から四角い手のひらサイズの箱を取り出し開けた。ジェイルはそれがなんなのか気になり覗いてみると、時計だった。


 針が一本しかなく、時間を示す数字がこれまた奇妙な物だった。


 十二時の所が〇(ぜろ)と表示されていて、右から一時の数字は一一と表示され、そこから十、九、八、と本来の時計の文字盤に記された数字と異なっていた。


 完全に逆の文字盤。


 その針は二のやや手前、本来の時計で例えるなら四十九分の位置で止まっている。


 奇妙な時計をガーウェンは目を凝らすように見ていた。


 「そりゃなんなんだ?」


 ジェイルはそれが気になり自然に聞いてみる。


 「気にするな。俺のお守りみたいな物だ」


 しかし、ガーウェンは一切説明しなかった。


 素っ気ないガーウェンの言葉に、ジェイルは深く考えず、あまり興味を持たなかった。


 「ちょっと! ここシャワーとかどこにあるのよ⁉」


 ふと背後でパーラインがご機嫌斜めな様子でガーウェンに文句をぶつけてきた。


 「そんなに浴びたきゃ、(かん)(ぱん)で全裸になって海水でもぶっかけてろ」


 しかしガーウェンは()(とう)(たたず)まいで、突きつけるような言い方で雑に返事をした。


 パーラインは眉間に皺を寄せ、不満が爆発しそうな顔で、フン、と吐き捨てながら去っていった。


 「たくっ、女ってのは本当にめんどくさい生き物だ。なあジェイル?」


 (俺に同意を求めるなよ)


 ガーウェンに無言でめんどくさそうな視線を向けるジェイルだった。


 リンダルトから出航し二時間が経過した時には辺りは真っ暗になり、星空が一面に広がっていた。


 地獄に星と言うのも妙な話だ、と思いつつ、ジェイルは不可思議な星の魅力に思わず目を奪われる。


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