3章 見極められる覚悟 13話
「ではまた頼むよガーウェン君。それでは」
オキディスはニヤついた表情でそう言うと、光の階段を上っていき、白いフードを被った人物達も麻袋を被せられた男達を誘導しながらオキディスの後を追っていく。
そして眩い光の先へと消えていき、その光も消えていく。
いけ好かない感じに三人共、不快感を露わにしていた。
「何なのあいつら?」
不機嫌な表情でパーラインはガーウェンにそう聞いた。
「やつらは天使界の人間だ。そして白髪の男は天使界で神に仕える神官だ」
ガーウェンの言葉にジェイルは驚いた。パーラインは天使界と言う言葉は初耳らしく首を横に傾げていた。
ジェイルの頭の中は困惑する一方だった。仮にオキディスがジェイルを殺したのなら、オキディスは何故、地獄に落ちず天使界にいるのか?
納得がいかないジェイルの脳裏では、少しでも情報を得よう、と一度、心を落ち着かせ、一番この事態を把握している人物に声を掛ける事にした。
「ガーウェン、さっきの取引みたいなやり取りはなんだったんだ? それにお前の地位だの地獄がどうなるだのとか言ってたが?」
「これは奴と俺の問題だ。お前が気に病む事じゃない」
ガーウェンは冷静な口調だったが、何かを隠したいという気持ちが嫌でも伝わった。
そこでジェイルは険しい表情でガーウェンの近くにまで進み、顔を近付ける。
「よく聞けよガーウェン。さっきのオキディスって奴は生前の俺を殺した奴に違いない。その証拠に奴の手の甲に、当時奴がしていたタトゥーの痕があったんだ。俺にはどうしても奴の情報がいる。だから頼む。教えてくれ」
無関係のパーラインに聞こえないようにジェイルは、小声で真剣な瞳でガーウェンに思いを伝えた。
ガーウェンはその瞳に目を逸らさず険しい表情で見つめる。
「奴はお前にとって宿縁ってわけだ。ならその運命に敬意を表して教えてやる。ただし小声で喋れ。他言無用だからな。」
そう言うとガーウェンは顔を横に逸らし一息つくため、軽く深呼吸をする。
「オキディスとは二カ月前からの付き合いだ。奴には地獄で快楽に耐えきれず廃人化となった人間を取引として渡している」
先程の麻袋を被せられた男達は自傷行為や傷つけられる日々に明け暮れ過ぎ、その快楽に耐えきれず自我を無くし廃人化となった人間だという。
「廃人化の人間を渡してる? ‥‥‥それでお前にどんなメリットがあるんだ?」
真剣な面持ちで首を傾げるジェイル。
「天使界の奴らからは酒を頂いている。その酒があるおかげで今の俺にはリンダルトで権力を握り振るうことが出来る。酒はこの地獄に取って、快楽に匹敵する癒しだからな。だからリンダルトの連中は酒を偽って運ぶ俺の言う事を聞くんだ。一部の奴らを除いて真実は伝えてある」
ジェイルは、しょうもない物で権力を手にしているな、とガーウェンに呆れてしまう。
「にしても何でお前はそこまで奴らと取引をするんだ? やっぱりリンダルトとでのお前の地位が関係してるのか?」
「リンダルトは他の島や街に比べて抗争が激しい街だ。仮に天使界の奴らと取引せずこのリンダルトを放置していたら間違いなく、廃人化になる人間は今の比ではないだろう。それを防ぐためにも俺には地位と権力が必要だ。さっきみたいに酒を振舞っても、俺の進言に耳を傾けないアホもいるがな」
意外とリンダルトの事を思って行動している事にジェイルは驚いた。そして少し感動した。
「お前、意外と良い奴なんだな」
そんな少し感動していたジェイルだが‥‥‥。
「と言いたい所だが嘘だ。ハッキリ言ってしまえば、奴らから送られてくる酒が美味くてな、その酒のためにやっていると言っても良い。俺の今の地位や権力に関しても正直どうでもいいのさ。廃人化は別の方法で防げばいい。俺の胆力と技量があればどうとにでもなるからな。」
ニヤニヤしながら言うガーウェンに呆れ、唖然とするジェイル。最後の言葉には一体なんの根拠があって言ってるのやら。
「だが、オキディスとの取引もそろそろ潮時かもな。お前の復讐に手を貸した方が面白そうだ」
心情が掴めないガーウェンの言動はジェイルの心を惑わせる。