3章 見極められる覚悟 10話
「とにかく焦燥しても仕方ない。今はお前を送り届ける目的地に向け準備するように、さっき指示したばかりだ。もう少し待っていろ」
ガーウェンの言葉にパーラインは歯がゆい感情を隠しきれず、ジェイルとガーウェンから距離を取り落ち着かない様子で薄暗い空を見上げていた。
「それからジェイル、お前も来い」
ガーウェンがジェイルの名を口にした瞬間、パーラインの肩がビクンと跳ね上がった。
「ちょっと待って! 今ジェイルって言った⁉」
ガーウェンがジェイルの名を呼んだ途端パーラインが慌ててジェイルに近づいて来た。そしてジェイルに炯眼の眼差しを向ける。
「貴方もしかして‥‥‥ジェイル・マキナ?」
ジェイルの顔を覗き込むようにパーラインは聞いてきた。
「何で俺の名前を知ってるんだ?」
恐る恐る聞き返すジェイル。
そして、場の空気が完全に沈黙するぐらい重くなる。三秒経ったその時。
――ドカッ
パーラインはジェイルの頬を思いっきり殴った。いきなりの事にジェイルは動揺し、ガーウェンはパーラインの意外な行動に口笛を軽く吹く。
頬から伝わる快楽。だがジェイルは、なぜ殴られたのか分からないまま呆けた表情をしていた。
そして少しすると怒りが沸々(ふつふつ)と湧き上がって来たジェイル。
「何すんだいきなり⁉」
当然の反応だが、そんなジェイルに対しパーラインはジェイル以上に激怒しているように見えた。
「私は貴方を許さない。絶対に!」
ジェイルはなんの事だかさっぱりわからなかった。パーライン・ステファニーと言う女性の名に聞き覚えは無く、ジェイルはただ困惑する事しか出来なかった。
「その辺にしておけ。なんでもめてるか俺の知った事じゃないが、ここで傷つけあっても快楽を与えるだけだぞ」
ガーウェンの正論に渋々(しぶしぶ)、納得したのかパーラインは不機嫌な表情でジェイルから少し離れそのまま後ろを向く。
ジェイルは殴られた事に納得がいかなかったが、これ以上もめても仕方ない、と思い先程のガーウェンの話に戻ろうとした。だが。
「てめえら、よくもふざけた真似してくれたな!」
蘇ったグロリバーが憤怒してジェイル達に近づいて来た。
「たく、次から次へと、話が進まねえじゃねえか」
ガーウェンがめんどくさそうに、ぼやくように言う。そして、グロリバーは手にしている斧でジェイルに斬りかかろうと近づいたその時、ガーウェンが間に入った。
「何をしている? もうゲームは終わったんだぞ」
「そんなの関係ねえ! あいつを殺す。おれはそう決めたんだ」
剣幕をガーウェンに突き立てるグロリバーはガーウェンの後ろにいるジェイルに指を差した。
「総督である俺の言う事が聞けないのか?」
別人のような形相で睨みつけるガーウェンだがグロリバーは怒りを抑えきれずにいた。
ガーウェンは腰にある剣を抜き取ろうと手にしようとしたその時、グロリバーが一瞬ジェイルの顔を見ようと顔を横にずらすと。
ジェイルとガーウェンの背後からナイフが飛んできてグロリバーの額に突き刺さった。
驚いたジェイルとガーウェンが振り向くとパーラインがナイフを投げた姿勢で止まっていた。
「貴方たち、早く話を進めてくれないかしら?」
パーラインはこれ以上待たされるのが嫌で、この問題を早く片付けよう、と邪魔なグロリバーを手に掛けたのだ。