3章 見極められる覚悟 9話
「これをどこで手に入れたかなんて事、貴方に関係あるのかしら?」
ジェイルは女の冷めた態度に腹を立て自分の妖魔の剣を抜き女の前に見せる。
「俺が持っているこの剣も妖魔の剣だ。そしてこれはアランバから貰った物だ。俺はアランバに少なからず恩がある。だからこそお前が仮にその剣を力ずくで手に入れたというのなら、俺はお前を斬ってでもその妖魔の剣を奪い返す」
力強いジェイルの言葉と覚悟を聞いた女は、真面目な表情に変わっていった。
「‥‥‥私も、貰ったのよ」
女は目線だけを下に向け、呟くように答えた。
「貰っただ?」
「ええ、そうよ。美人だからゴロツキ達に狙われる。そう言って護身用にくれたのよ」
真っ直ぐジェイルに目線を向ける女の姿勢。その言葉に偽りはなかった。
今になってジェイルの中でアランバの親切心に有難味を持った。それにしても防刃コートを貫通させるほどの刃すらも作ってしまうとはアランバの技術力は相当な物だろう。
「にしてもお前、あのタイミングで普通、刺すか?」
「むしろあのタイミングだからでしょ。なに? 文句でもあるの? それに謝ったじゃない」
逆切れ気味の女にジェイルは呆れてしまい、先程までの怒りがどこかへ吹っ飛んでしまうのを感じる。
口をあんぐり開けるジェイルに対し、女は不機嫌な表情でそっぽを向いていた。
「よく優勝した。パーライン・ステファニー。これでお前の望みである、あいつの所に連れてってやる」
ガーウェンがニヤけた笑みでジェイル達の前に現れた。そして勝者である女、パーラインに望みを一つ叶えさせることになった。
ジェイルはパーラインと言う名前を聞いて、どこかで聞き覚えのある名前だ、と思い首を傾げる。
「早くあの人の所に連れてって、貴方なら知ってるって言ってたでしょ!」
パーラインは望みが叶えて貰えると分かった瞬間、ガーウェンに飛びつくんじゃないかと思うぐらい慌てていた。
「まあそう慌てるな。奴の行き先なら既に目星が付いている」
「なら早くしてよ。こうしている間にもひどい目に遭って死んでたりしたらどうするのよ⁉」
ガーウェンの胸倉を両手でしっかりと掴み血相を変えるパーライン。しかし、ガーウェンの表情は変わらずニヤけた笑みだった。そして後ろでリタイアしていった参加者に振り向く。
「あいつらをよく見て見ろ」
ジェイルとパーラインもガーウェンの言うようにリタイアしていった参加者に目を向ける。するとジェイル達の近くの溶岩から黒いスライムのような液体がニュルリと現れた。
その黒いスライムのような液体はまるで生きる場所を求めるかのように、安全地帯である地面へと、にゅるにゅると動きながら移動していた。
地面へと移動出来たその黒いスライムの液体が激しく、にゅるにゅると動き出す。
突如、その黒いスライムが蒸気と化し渦を巻くように人の形へと形成されていく。少しダークファントムに似ている。
人の形から形成された黒い渦は元の人間の身体に戻っていった。衣服や靴までも元通りになっていく。
そして、うつ伏せに倒れたまま、溶解されたはずのグロリバーが蘇った。
ジェイルは初めて地獄の人間が生き返る光景を目の当たりにして驚きを隠せずにいた。
奥で死んでいた二人や虎も同じように生き返っていく。
「あんな感じで生き返るんだ。どれだけ痛めつけられ、拷問にかけられ殺されようが、ああやって息を吹き返す。だから安心しろ」
「安心できるわけないでしょ! もしそんな目に彼が遭っていたらと思うと私の心が痛むのよ」
ガーウェンの主張に対し、パーラインは、これは感情的な問題だ、と主張する。