序章 始まりの弾丸 3話
周囲を見まわし、危険が無い事を確認すると、呼吸だけは徐々に落ち着きをり戻していく。
少しでも安全な場所で警察を呼ぼう、と思ったジェイルは奮起し自分の住んでいるアパートに走り出した。
アパートに着き、疲れ切った息を吐き捨てる。扉を開け、迎える相手もいない部屋に入ると、すぐに警察に通報した。
しかし、警察は『今はどうしようもない! 君だけでも無事でいてくれ!』と一方的に告げられ電話を切られた。
「くそっ!」
ジェイルは何も出来ず逃げ出した自分の不甲斐なさに苛立っていた。
深いため息を吐き捨てても嘆かわしい気持ちは抜けきれないジェイル。
そんな思いを引きずりながら少しでも気持ちを落ち着かせるため、コートを脱ぎ捨て、座布団に座る。
殆ど趣味もお金も無いジェイルの部屋はテレビぐらいしかない生活感の無い部屋だった。
部屋の灯りを点けてもその陰鬱な表情は晴れない。
それでも空腹は感じていたためレジ袋から弁当とビールを無造作に取り出した。
あんな事があっても腹が減るものだ、と情けなく思うジェイル。
ぷしゅっ、とした音を立て、泡がこぼれ出てくるビールにも慌てることなくそのまま口にする。
半分程まで勢いよく飲むと、お弁当に手を伸ばす。ジェイルは感情を無にしたような表情で楽しむでもなく、そのお弁当を機械的な動作で口にしていく。
そして、テレビを点けるジェイル。
「本当に世の中は困窮だけでなく、犯罪が絶えませんねえ」
テレビに映っている痩躯の男の新人アナウンサーが深刻な表情でふくよかな男の犯罪ジャーナリストに話を振る。
「そうですねえ。もう五十年以上前からこのような状況は続いていますし、このままでは世界が文字通り崩壊します。飢えを無くすため犯罪に手を染める者や、嬉々(きき)として秩序を犯す者達。いい加減、打開策を見出さなくてはなりません」
犯罪ジャーナリストもアナウンサーの話を真摯に聞き、真面目に答える。
「五十年も前は世界は繁栄で豊かな物でしたが、それはさておき、この危機的状況を覆すにはやはり、生きている素晴らしさを実感し、人一人が寄り添う社会にすべきでしょうかね?」
ジェイルは知らないが、今から五十年前までは世界は豊かで平和その物だった。いつからか、悪魔の世界と呼ばれるほど、変わり果てていた。
「少し想像を飛躍してみましょう。今、私達は死地に居るのと何ら変わりはありません。なのでこう考えるべきです。死んでも行く地もまた死地なので怖がらず、死を受け入れましょう。なんちゃって」
犯罪専門家は場を和まそうとしていたのか、最後に舌をぺろりと出した。
「ふざけやがって!」
ジェイルは激怒し、残りの酒が入っていた缶をテレビに思いっきり投げ付けた。
虚しく部屋に響き渡る音。
あのイリスと警察官の命が蔑ろにされた気分だった。
ジェイルは大きく息を吐き捨てて俯いた。
そこで、ふとジェイルの過去が脳裏を過る。