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3章 見極められる覚悟 5話

 「いいかお前ら。これからやるのは障害物レースならぬ地獄レースだ。妨害しようが何でもありだ。手前に見える動く鉄の床を渡り、虎がいる檻を突破し、最後に綱渡りだ。まあ、見ての通り罠があるが、それはお前らでなんとかしろ。肉が裂け、骨を嚙み砕かれ、器官や神経を毒で(おか)されようが、臆さず進め。最高の快楽を味わいながらな」


  語気を強め、参加者、一人一人の顔色を伺いながら、ガーウェンは激励の言葉を掛ける。


  それを聞いて、ジェイルのように身を引き締め、鋭い眼差しをする者や、グロリバーのように薄気味悪い笑みを浮かべる者。


  「それから、虎がいる檻には鍵は掛かっていない。だが安心しろ。外に出てこないように調教してある。中に入るまであの牙や爪で()でられる事はない。ま、()でられた時には死んでるがな」


  最後に不敵な笑みを浮かべるガーウェン。


  観客席からは、悲鳴のような歓声が上がってくる。


  「それじゃそろそろ始めるぞ。位置に付け。勝者には望みを一つ叶えてやろう」


  ガーウェンの指示に従い全員が地面に付けられた、浅く掘られた溝の印の前に立つ。そしてガーウェンがピストルを天に向かって上げる。


  「いいな、行くぞ。レディー‥‥‥ゴー!」


  ピストルの発砲音と共に全員が一斉に走り出す。


  走り出した直後、ジェイルに向かってきたのはグロリバーだった。


  「オラアァ!」


  グロリバーは大声を上げ、斧を振りかざしてきた。ジェイルは、グロリバーを警戒していたので不意打ちにはならず、なんとか間一髪で()けた。


  ジェイルは、対抗するかと思いきや、迷わずゴールに向かって走り出す。


「へなちょこ! さっきの威勢はどうしやがった!」


  ジェイルは、喚くグロリバーの声を無視しながら、最初の関門に辿り着く。


  機械的な音を立て、勢いよく閉まっては開く鉄の床。一枚の鉄の床を渡り地面に足を付け、また動く鉄の床を渡り地面へと着地する。それを五回も繰り返し渡らなければならない。


  ジェイルの先では、既に二人が渡っている最中だった。


  そして、最前列で渡っていたのが先程の女性だった。その女性は既に四枚の鉄の床を渡り切り、残す鉄の床は、後一枚のみだった。


  ジェイルも負けじと、一枚目の鉄の床を渡ろうと意識を集中する。


  手前で見た鉄の床を見てみたがまだ開いていた。そして二秒程経つと、勢い良く鉄の床が閉じる。その瞬間に、ジェイルは駆け出そう、と一歩踏み出そうとした瞬間だった。背後からグロリバーが迫って来た。ジェイルは一瞬振り向いた。その瞬間、グロリバーがジェイルの首、目掛け斧を振ってきた。


  焦ったジェイルは、何とか後ろに下がり回避した。しかし鉄の床に乗ってしまい、急いで振り向き鉄の床を駆け抜けようとする。


  後二メートル辺りで、鉄の床が開いてしまうかもしれない生か死かの()()(ぎわ)、ジェイルは残り二メートルを(ちょう)(やく)した。


 そして、飛んだ瞬間、バタンと勢いよく開いた鉄の床。


 空中から下を覗いてみると肥満体系の男が顔を歪ませながら針の山に串刺しになっていた。


 「ああ、ああぁ」


 手や、足、腹部などが針の山で貫通され大量の血を流しながら、快楽を感じていた。


 それを空中から見たジェルはあまりの薄気味悪さに背中に悪寒が走る。


 地面に着地したジェイルは気持ちを切り替え、二枚目の鉄の床を渡る。背後からグロリバーが、「待ちやがれ」と叫んでいたが聞く耳を持たなかった。


 そこから三枚目、四枚目、五枚目と鉄の床を危なげながらも渡っていくジェイル。


 渡りきったジェイルが前方に目を向けると、先に進んでいるはずの二人が何故か鉄の檻の前で、苦悶の表情で立っていた。


 ジェイルも肩で息をしながら、鉄の檻の前に辿り着いた。


 そして、ジェイルは、二人が先に進まなかった理由を肌で感じ取る事になる。


 二匹の虎が今にでも鉄の檻をぶち破り、こちらに襲ってくるんじゃないかと思う程の気迫を感じる。


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