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3章 見極められる覚悟 3話

 地面にある黒い()(じん)が低い波を立てるように滑走(かっそう)する。そのスピードは目の前で獲物に食らいつくチーターを超える程の物だった。移動したその(せつ)()、ジェイルの剣がガーウェンの腹部に深く突き刺さる。


 「やりゃあ出来るじゃねえぁ」


 ジェイルの手に握られていた剣からは、ゆっくりとガーウェンの血が垂れ落ちていく。


 「うっ、うぅぅ」


 しかし、攻撃したはずのジェイルにも異変が起きていた。何とガーウェンの手で握られていたナイフがジェイルの心臓に刺さっていた。


 ジェイルが攻撃した時に実体化に戻った一瞬のタイミングを計り、ガーウェンがカウンターを仕掛けジェイルの心臓にナイフを突き刺していたのだ。


 ジェイルからはガーウェン以上の血が胸から流れ始める。


 快楽に耐える事は出来ても死には耐えられなかったジェイル。


 ジェイルの意識は深い闇へと落ちて行く。


 それからどれだけの時が経ったのかは分からない。気が付いた時には会場から(かっ)(さい)の声が鳴り響いていた。ジェイルはその声に耳を傾けながらゆっくりと目を開ける。


 「目が覚めたか」


 落ち着いた声でそう言ってきたのはガーウェンだった。ガーウェンはうつ伏せに倒れていたジェイルに手を差し伸べてきた。そして、ジェイルは自分が敗北した事を実感した。だからこそガーウェンにはこの戦闘で企てる事はもう何も無い、と思い、その手を疑う事なく掴んだ。


 そう、ジェイルは負けたのだ。


 負けてしまった事で、どこか虚ろな瞳をしていたジェイル。(てん)使()(かい)へ行くのはもう駄目なんだ、と諦めかけていた。


 「合格だ」


 しかしガーウェンは、ジェイルに合格を言い渡す。それを聞いたジェイルは驚愕した。


 「何で合格なんだ? 俺は負けたんだぞ?」


 「俺は戦えと言っただけであって、誰も勝てとは言ってないだろう」


 ガーウェンは、()()するような笑みを浮かばせてきた。


 どっとした疲労感が身体全体にのしかかるジェイル。


 ジェイルは肩の力を抜くため、大きく深呼吸をする。


 「じゃあ次の試練だ。ジェイル」


 (あん)()していたジェイルの脳裏に受け入れがたい言葉が直撃する。


 「おい! 嘘だろ?」


 ジェイルは何かの聞き間違いだと思った。(たち)の悪い冗談だと思いたい程。


 「生憎(あいにく)、俺は嘘が嫌いでな。だが安心しろ。次で最後だ」


 ガーウェンはニヤリとした笑みをジェイルに向ける。また次なる試練を言い渡されたジェイルの神経は()(もう)している感じがした。しかし、時は待ってはくれない。休む間もなくガーウェンは「こっちに来い」と口にし、仕方なくジェイルは重い腰を上げた。


 リングの外に置いておいた(よう)()の剣と防刃コートを手に取り身体に身に着けると。ガーウェンの後ろを付いていくジェイル。


 憂鬱な足取りのジェイルは、ふと疑問に思う事が脳裏に浮かぶ。


 「そう言えば何でさっきはあんなに早く生き返ったんだ? 最初の頃は五カ月もかかったのに」 


 「あの時はお前がまだこの地獄を受け入れる前に殺されたからだ。受け入れさえすれば(わず)かの時間で蘇生される」


 ジェイルは「単純な話だな」と口にし、すんなりと受け入れていた。


 「次は何をするんだ?」


 「それは着いてからのお楽しみだ」


 ガーウェンは不敵な笑みを浮かべ、後ろを付いていくジェイルに視線を軽く向ける。そして歩いて行くと、いつの間にか要塞の外に出ていた。


 そこから要塞の裏に回って行くと、その先に巨大なコロッセオの会場が目に映ったジェイル。


 薄暗いはずの地獄に神聖な領域が展開されているような感じがした。


 神々しく、(そう)(ごん)な光景。妙な重圧感がある。


 その重圧感に圧倒されたジェイルは思わず生唾を飲み込む。


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