3章 見極められる覚悟 2話
説明し終えるとジェイルの身体を前に突き飛ばすガーウェン。
ジェイルは動揺しながら姿勢を整え、ガーウェンの方に身体を向ける。
ガーウェンとジェイルの攻防を見ていた観客席にいる快楽戦士やゴロツキ達は興奮し、雄たけびを上げていた。
「今のお前になら出来るはずだ」
そんな熱狂の中、ガーウェンはジェイルにダークファントムを習得させようとしていた。
なぜそんな事を教えようとしているのか腑に落ちないジェイル。
一体、なんのメリットがあるのか?
「何でそんな事を俺に教える?」
ガーウェンに訝しい眼差しを向けるジェイルはその答えを待った。
「ただの気まぐれだ」
またもやガーウェンの気まぐれ。
ジェイルはこれ以上、考えるのも馬鹿らしく思い、この事に関して思案するのを止めた。
ガーウェンの事は今でもよく分からない。捉えどこが無く陽気で頭のネジが飛んだイメージがあるぐらいだ。
信用する事はまだ出来なくても、敵意が感じられない分、ジェイルにとっては、地獄で対話が出来るだけでも幸甚なのだ。
しかし、これは真剣勝負。
それに、今のジェイルに卓越された技術や能力が身に付けられるのなら、それは必ず、復讐するための矛となるはず。
そして、ジェイルは自分もダークファントムが扱えるか興味を持ち始めた。それを上手く扱えればガーウェンに、もう一太刀ぐらいの傷は付けられるのではないか、と考え始める。
今度はジェイルが両腕を大の字に広げ始めた。それを見たガーウェンがニヤついた笑みで、「そうこなくちゃな」と口にすると、ジェイルに向かって走り出し、ナイフでジェイルの腹部を突き刺した。
「うっ!」
ジェイルは身体に襲い来る快楽に耐え、ガーウェンの言う通りにイメージしてみた。二秒、五秒と経っても一向に変化はない。
何があったのか? と快楽戦士やゴロツキ達はジェイル達を怪訝な面持ちで注視していた。
どよめく闘技場。
駄目か、と思った十秒後だった。ジェイルの刺された腹部から黒い霧が立ち始める。それを見たガーウェンはニヤリと笑い、ジェイルの腹部に刺していたナイフを勢いよく抜き、バックステップで後退する。
すると、ジェイルの腹部からだけでなく、身体全体にまでその黒い霧が立ち始める。そしてジェイルは更にダークファントムを使えるイメージを強く持っているとジェイルの身体は黒くサラッとした砂と化し、リングに沈むように落ち始めた
黒い土煙と化したジェイルの意識は少しぼんやりしていた。自分の身体ではない感じもするし、ハッキリとそう実感しているような奇妙な感覚。剣や衣服なども身体と同化しているような不思議な感覚。
知らない間に人体改造でもされたのはないか? と思う程。
そのぼんやりしている意識のジェイルを俯瞰してくるガーウェンを視界に捉えるジェイル。
ジェイルが地面に隠れ潜んでいる事はダークファントムを扱えるガーウェンだからこそ知っている事だ。ジェイルはそれを踏まえながらもガーウェンの背後に回ろうか、と考えたが、敢えて正面に突っ込む事を考えた。
そして、ジェイルはガーウェンの腹部に狙いを定めダークファントムで移動を開始した。