3章 見極められる覚悟 1話
互いに武器を握りしめ、リングへと上がるガーウェンとジェイル。二人は一定の距離を取り、試合開始の合図を待つ。
ニヤつくガーウェンに炯眼の目を向けるジェイル。
不思議と緊張はしていない。それどころか、ガーウェンに勝ち、見返してやりたい、と言う思いでいたジェイル。
やはり内心、舐められている事に立腹していたのだ。
地獄に落ちてから、いつの間にかネガティブな面影が薄くなっていたジェイル。
そして、先程ガーウェンに斬られた快楽戦士が腹部当たりの服が血まみれの状態でリングに上がりレフリーを務める。
何事もなかったかのようにけろりとした面持ち。
「ではこれより、ガーウェン・ヴォンバット対ジェイル‥‥‥なんて言うんだ?」
ジェイルのフルネームを知らされていなかったレフリーは素っ頓狂な顔でジェイルに視線を向ける。
「ジェイル・マキナだ」
「ああ、そうか‥‥‥ジェイル・アキタの試合を始めます!」
「おい!」
レフリーの間違いに思わずツッコミを入れるジェイル。
「試合‥‥‥始め!」
レフリーの試合開始の合図と共に、ガーウェンが先に仕掛けジェイルを攻撃してきた。
首を狙ってナイフを振ってきたガーウェンに、ジェイルは慌てて後ろに下がる。ガーウェンは透かさず腹部や顔を狙い何ども攻撃を仕掛けてくる。
剣で防いでも何カ所か当たってしまうジェイルは快楽に耐えながらも何とか立っていた。
「ほう、ある程度は快楽に耐えられるか。だがそんなんじゃ、俺に傷一つ付けられないぞ」
流石に戦闘経験の差がある分、ジェイルが不利な状況だ。
しかし、ジェイルは臆さず前へ出て剣を振るう。しかし、ガーウェンは短いナイフでいとも容易く受け止めた。
ジェイルは動揺を抑えきれず思わず驚く。
「良いぞジェイル。斬られても快楽に耐え、果敢に向かってくるとは流石だ。褒美に良い物を見せてやる」
そう言うとガーウェンは後ろに下がり両腕を大の字に上げ、どこからでも来い、と言わんばかりの姿勢を取る。
完全に舐められた、と思ったジェイルは眉間に皺を寄せ、両手で剣を強く握りしめ、ガーウェンに向かって行き、胸部に狙いを定め、思いっきり振った。
完全に捉え、ガーウェンの胸部を斬った。すると、斬られたはずのガーウェンが血飛沫を上げる中ニヤリと笑いだした。
そして、目の前に居たガーウェンは黒い土煙のような物になりリングに崩れ落ち、姿を消した。ジェイルはいきなり何が起きたのか? と困惑する。
一瞬、ジェイルの視界に、黒い土煙のようなものが、リングの上を走っていくのが見えた。
その黒い土煙はジェイルの背後に回った。
「どうした? 俺はここにいるぞ」
その声に気付いた時には、ジェイルの喉元にガーウェンのナイフが当てられていた。
「‥‥‥お前、何をした?」
額から冷や汗が垂れ下ちてきたジェイルは横目で後ろにいるガーウェンにそう問いかける。
「‥‥‥ダークファントム。快楽から繰り出せる、亡者の黒き滑走だ。そしてダークファントムを扱うには、快楽に耐えながら自分の身体を粒子かし、滑走するイメージを持つ事。すると破損した身体から全体に至るまで黒い砂塵となり一定の距離まで移動できる。黒く浅い波を立てながらな」
低く、ゆったりとしたガーウェンの声。