2章 生者の血を求めて 13話
案内された先は要塞の中央区間に位置する、大きな四角いリングの闘技場だった。
周囲の観客席からは大勢の快楽戦士とゴロツキ達で埋め尽くされていた。
天井から無数のライトの光が闘技場全体を照らしている。
その光景にジェイルは目を奪われた。漫画や映画でしか見た事が無い決戦の舞台に今から自分が経つのだ、と思うと全身が振え始めるジェイル。
「戦いに使う武器はこっちで用意しといた。好きな物を選べ」
ガーウェンが説明し終えると、一人の快楽戦士がキャスターテーブルを運んできた。
その上にはトゲ先がキラリと光る金棒や西洋風の剣、薔薇の三倍の太さと長さのトゲのムチやコンバットナイフなどが並べられていた。
ジェイルは並べられた武器を見て、ふと思った。これからテストされるなら、この場で妖魔の剣や防刃コートは無粋な物だ、と思ってしまった。
そう思うと自然と防刃コートを脱ぎ、妖魔の剣と一緒に足元に置いた。そしてジェイルは使い慣れている西洋の剣を選び、強く握りしめる。
「まあ、お前が選ぶ武器はそうだろうな。なら俺は‥‥‥」
ジェイルが選ぶ武器を呼んでいたガーウェンが選んだ武器は。長さ十センチにも満たないコンバットナイフだった。大体六センチと言った所か。そんなリーチの短いナイフで六十センチはある長さの剣に対抗するのだと言うのだろうか?
ジェイルの脳裏で強い怪訝が渦巻いてくる。そんなジェイルを見てガーウェンはニヤリと笑う。
「なあに、こいつはハンデだ」
「ハンデだと?」
「そうだ。そもそもこの地獄に来たばかりの、ひよっこ相手に総督である俺が全力を出すわけにはいかないだろ?」
そう言う事か、と理解したジェイルはそれと同時に怒りが湧き上がって来た。完全に舐められていると直感したのだ。
「何で俺が総督の地位に付いているか分かるか?」
「‥‥‥何でだ?」
ガーウェンは疑問に思うジェイルを見てフッと笑う。
「それは俺が誰よりも強いからだ! だからこそ俺はこの地獄で頂点に君臨しているのさ!」
会場全体に聞こえるかのように語気を強め、高く上げた両手に自信に満ちた表情のガーウェンに会場からは喝采が鳴り響く。ジェイルはそんな光景を黙って見ていた。
「でも総督。その最強は自称でしょ? リンダルト以外じゃ通じないぜ」
にんまりと笑う部下の快楽戦士が水を差すように言ってきた。
「うるせえ!」
それに腹を立てたガーウェンは持っていたナイフで部下の腹を斬りつけた。
「うああああ! あっ、ああ‥‥‥」
気持ちよさそうに喘ぎ、その場で膝をつける部下。
それを見たジェイルは好きにやってろよ、と冷めた面持ちでいた。
何にせよ、今一番優先しなければいけないのは、ガーウェンに勝つ事。
だが、考えてみればガーウェンが手加減をする事によりジェイルの勝率が上がる。そう思ったジェイルは、これは好機だ、と思っていた。
どれだけ舐められても構わない。その方が今のジェイルには都合がいいのだから。
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二章 生者の血を求めて、はここまでです。
次回からも引き続き書いていきますので、よろしくお願いします。