2章 生者の血を求めて 12話
ガーウェン曰く、この要塞では無意味な争いは禁止されていて、許されるのが自傷行為のみらしい。そして外と違う点がもう一つあり、この要塞では様々な娯楽施設があると言う。娯楽施設と言っても、世に言う拷問や処刑に使われる物をリメイクしたような物だ。例えば溶岩風呂、針天井マッサージなど、様々な娯楽施設ならぬ地獄楽施設と呼ぶべきであろう物があると言う。
そんな要塞に入れる条件も単純なものであって、総督の意向に背かなければ誰でも入れるらしい。
総督の意向と言っても特に決まった規定はなく、総督の気まぐれで情勢が変わると言う。今のように殺し合いや傷つけ合う事を禁止する日もあれば、要塞全体でバトルロワイヤル形式で殺し合う日もあると言う。
バトルロワイヤルは、ただ殺し合い快楽を得るためではなく、剣術や武術のスキルを向上させる、と言う狙いもある。
実際に、要塞のゴロツキ一人は、リンダルトの無法者のゴロツキ十人の戦力に匹敵すると言う。
ゴロツキ達をここでは、快楽を貪り抗う矛盾な戦士と言われている。略して快楽戦士と言う。要塞にいる、快楽戦士の数は、総勢五百人。
話を聞きながら歩いていると二人の快楽戦士達が近づいてくる。
「総督。お戻りになられましたか」
「はっ! 総督⁉」
丁寧に挨拶をしてくる快楽戦士の一人がガーウェンに向け確かに総督と口にしていた。
何を隠そう、ガーウェンがこのリンダルトの総督だったのだ。
驚愕するジェイルにガーウェンはニヤニヤした視線を向けて来た。まるで、感想はどうだ、と言わんばかりの相好だ。
「お前、俺を騙してたのか?」
「騙してたなんて人聞きが悪いぞ。俺はただ、会わせてやるとだけ言っただけだ。そう言った瞬間、お前は俺に会えた。それだけだ」
屁理屈を並べ、おちょくるかのようなガーウェンにジェイルは呆れていた。
「もういい、それよりお前が総督なら、天使界の行き方を知っているんだよな? 教えてくれ。どこなんだ?」
「そう慌てるな。それを教える前に、お前をテストさせてもらう」
流石にタダで教えてくれそうな感じはしていなかったので、そこまで驚きはしなかったジェイル。だがテストと言うのは、やはりいい感じはしないし、納得がいかない。
「なんで俺がテストされなきゃならないんだ?」
「簡単な事だ。お前が本当に生者の血を使い、復讐を果たせる者であるか、その覚悟が見たいからだ」
それを聞いたジェイルは脳裏に少し引っ掛かる事があった。先程ジェイルに生者の血に付いて調べさせた理由はガーウェンの中である程度、ジェイルにその覚悟があるのか確かめさせたのかもしれない、と。
「そのテストで何をしたら良いんだ?」
教えてもらう身の上な事を理解したジェイルは、仕方なくそのテストに付いて聞いてみる事にした。
「‥‥‥この俺と戦ってもらう」
先程までニヤついていた表情から鋭い眼差しを向けてくるガーウェン。
辺り一帯の空気が重苦しくなっていく。
そして「着いて来い」と一言、口にし先に歩いて行くガーウェン。ジェイルは困惑していた。脳裏に過るのは、不安のみだった。
しかし、ここでガーウェンに背を向ければ、二度と生者の血に付いての手掛かりが掴めない、と察したジェイルは覚悟を決め、ガーウェンの後を遅れて付いて行く。