前へ次へ
21/197

2章 生者の血を求めて 12話

 ガーウェン(いわ)く、この要塞(ようさい)では無意味な争いは禁止されていて、許されるのが()(しょう)(こう)()のみらしい。そして外と違う点がもう一つあり、この要塞(ようさい)では様々な()(らく)()(せつ)があると言う。()(らく)()(せつ)と言っても、世に言う拷問や処刑に使われる物をリメイクしたような物だ。例えば溶岩風呂、(はり)天井(てんじょう)マッサージなど、様々な娯楽施設ならぬ地獄(じごく)(らく)施設(しせつ)と呼ぶべきであろう物があると言う。


 そんな要塞に入れる条件も単純なものであって、総督の()(こう)(そむ)かなければ誰でも入れるらしい。


 総督の意向と言っても特に決まった規定はなく、総督の気まぐれで(じょう)(せい)が変わると言う。今のように殺し合いや傷つけ合う事を禁止する日もあれば、要塞全体でバトルロワイヤル形式で殺し合う日もあると言う。


 バトルロワイヤルは、ただ殺し合い快楽を得るためではなく、剣術や武術のスキルを向上させる、と言う狙いもある。


 実際に、要塞のゴロツキ一人は、リンダルトの無法者のゴロツキ十人の戦力に匹敵すると言う。


 ゴロツキ達をここでは、快楽を貪り抗う矛盾な戦士と言われている。略して(かい)(らく)(せん)()と言う。要塞にいる、(かい)(らく)(せん)()の数は、総勢五百人。


 話を聞きながら歩いていると二人の(かい)(らく)(せん)()達が近づいてくる。


 「総督。お戻りになられましたか」


 「はっ! 総督⁉」


 丁寧に挨拶をしてくる(かい)(らく)(せん)()の一人がガーウェンに向け確かに総督と口にしていた。


 何を隠そう、ガーウェンがこのリンダルトの総督だったのだ。


 驚愕するジェイルにガーウェンはニヤニヤした視線を向けて来た。まるで、感想はどうだ、と言わんばかりの相好(そうごう)だ。


 「お前、俺を騙してたのか?」


 「騙してたなんて人聞きが悪いぞ。俺はただ、会わせてやるとだけ言っただけだ。そう言った瞬間、お前は俺に会えた。それだけだ」


 屁理屈を並べ、おちょくるかのようなガーウェンにジェイルは呆れていた。


 「もういい、それよりお前が総督なら、天使界(てんしかい)の行き方を知っているんだよな? 教えてくれ。どこなんだ?」


 「そう慌てるな。それを教える前に、お前をテストさせてもらう」


 流石にタダで教えてくれそうな感じはしていなかったので、そこまで驚きはしなかったジェイル。だがテストと言うのは、やはりいい感じはしないし、納得がいかない。


 「なんで俺がテストされなきゃならないんだ?」


 「簡単な事だ。お前が本当に生者(せいじゃ)の血を使い、復讐を果たせる者であるか、その覚悟が見たいからだ」


 それを聞いたジェイルは脳裏に少し引っ掛かる事があった。先程ジェイルに生者(せいじゃ)の血に付いて調べさせた理由はガーウェンの中である程度、ジェイルにその覚悟があるのか確かめさせたのかもしれない、と。


 「そのテストで何をしたら良いんだ?」


 教えてもらう身の上な事を理解したジェイルは、仕方なくそのテストに付いて聞いてみる事にした。


 「‥‥‥この俺と戦ってもらう」


 先程までニヤついていた表情から鋭い眼差しを向けてくるガーウェン。


 辺り一帯の空気が重苦しくなっていく。


 そして「着いて来い」と一言、口にし先に歩いて行くガーウェン。ジェイルは困惑していた。脳裏に過るのは、不安のみだった。


 しかし、ここでガーウェンに背を向ければ、二度と生者(せいじゃ)の血に付いての手掛かりが掴めない、と察したジェイルは覚悟を決め、ガーウェンの後を遅れて付いて行く。



前へ次へ目次