2章 生者の血を求めて 11話
「分かったよ。とにかく俺はリンダルトの総督に会って、天使界の行き方を教えて欲しいんだ」
「そこに生者の血の手掛かりがあるのか?」
うっかり口を滑らせたジェイル。しかしこれぐらい言わないと話が進まない、とも思った。ジェイルには頼れる人が今の所ガーウェンしかいないからだ。
「……ああそうだ。でも、これ以上は言えないぞ。この情報をくれた奴と他言無用と言う約束をしたからな」
ジェイルは少し言うのをためらった。
それを聞いたガーウェンがニヤリと笑みを浮かばせる。
「何度も言わせるな。俺は生者の血に興味はない。それに、その生者の血の情報を提供した奴が他言無用と言った理由も察しがつく」
生者の血は、死者にとっては、救いの血でもあり、滅びの血。
生者の血について精通しているアランバのように、外部の人間に露呈され、後者で用いられるのを少しでも回避したい、と言う人間もいるはず。
いくら死者を蘇らせる事が出来ると言っても、人の理から逸脱し、死者を抹消する危険な懸案事項は未だ否めない。
ガーウェンはそれを知っているからこそ、生者の血を他言無用とする理由の意図が通じるのだろう。
「‥‥‥誰なんだ。俺に合わせたい奴ってのは?」
ジェイルは、話を切り替え、ガーウェンが言っていた、会わせたい、と言う人物が気になり始める。
「今のお前がこの世の誰よりも会いたい男だ。そう言えば分かるか?」
敢えてその人物の名を口にせず、ガーウェンは意地悪そうな顔を向ける。しかしジェイルにはその人物が誰なのか、先程までのガーウェンとの言葉のやり取りで分かっていた。
「――総督か!」
「ああ、そうだ。で、どうする?」
ジェイルは、「もちろん行く」と口にしてガーウェンと共に酒場を出た。
少し歩いていると先程の疲労がいつの間にか回復していた。どうやらこの地獄では傷や死が自然治癒される分、疲労の回復速度も速いらしい。
不死身の身体、そして痛みと死が快楽に変わる世界。
唯一、理性だけがジェイルを人たらしめていた。
ジェイルは地獄のシステムを理解するだけではなく、その事実を牢屋にいた時よりも受け入れ始めていた。
それにしても、ガーウェンはアランバと同じくらい生者の血に付いて知っていたのではないか? と釈然としないジェイル。
仮にそうだったとしたら、何故ガーウェンは直接、教えてくれなかったのか? とつい思ってしまう。
そんな違和感を感じながら、到着した場所は岩で出来た巨大な要塞だった。その要塞を見上げるジェイルはここに総督がいるのか? と思うと自然と身が引き締まる。なにせこれから会うのは、このリンダルトの最高責任者のような人物だからだ。
そして、ガーウェンが「こっちだ」と言い、ジェイルはガーウェンの後を着いて行く。
トンネルのような空洞を、円を描くようにして歩いて行く。
篝火もあったため、視界はそこまで悪くなかった。
度々、横に抜ける場所を通るなどしていた。
行く先々で、ゴロツキ達が居た。外にいるゴロツキ達と違い、落ち着きがあり、他愛のない雑談をしていた。青と白の縞模様のシャツにボトムスのようなズボンや黒いバンダナを頭に巻いているなどしている。まるで海賊だ。
それを見たジェイルは酒場や牢獄と同じく、落ち着ける場所だ、と思い、安堵した。
だが中には、自傷行為などするゴロツキ達が度々居たりしていたので、やはり地獄なだけはあった。