序章 始まりの弾丸 2話
「――イリスー!」
それに気付いた母親は大声で泣き叫んでいた。
ジェイルも悲痛な表情で奥歯を噛みしめていた。
更に五分後、ようやく救急車と警察が現場に到着した。
しかし、時すでに遅く、亡骸となったイリスを救急車に運び嗚咽を漏らす母親が一緒に乗り、救急車はサイレンを鳴らす事なく去っていった。
その場で警察は現場を検証し、ジェイルに事情聴取を取っていた。
ジェイルは未だにショックを隠し切れず、覇気の無い声でありのままを伝えた。
来ていた警察官は三人共、やせ細り目のクマも酷く、疲労困憊の様子だった。
事情聴取をする警察官の無線機から『殺人事件が起きた! 直ちに現場に急行せよ!』と指令が来ていた。
しかもそれが別件で立て続けに五回も指令が来る。
警察官達はろくに現場検証もせず、パトカーに急いで乗り次の現場へと向かって行こうとする。
「おい! ちゃんと捜査しろよ!」
ジェイルは警察の対応に怒りパトカーの窓越しで怒鳴る。
「出来る事ならそうしたいさ! こっちも不眠不休で働いてるがどうしようもないんだよ! 全てに対処できないのが現実だ! 恨むなら八十パーセントもの犯罪に手を染めるクソヤロー共を恨め!」
窓を開け、ジェイルに反論する警察官。
その言葉にジェイルは何も言えず呆然としながら、去っていくパトカーをただ見ている事しか出来なかった。
ジェイルは愕然としていた。まだ八歳にも満たない女の子の死の真相が闇に葬られてしまった瞬間を目の当たりにしたからだ。
悪魔の世界に絶望するジェイル。
サイレンの音を聞きながらジェイルは振り返って歩くと、先程、落としたお弁当とビールの入ったレジ袋を拾い上げる
そして、次の瞬間。
――ドカーン!
突然、ジェイルの後方から身体全体に響くような爆発音がした。
ジェイルは慌てて後ろを振り返ると七十メートルまで離れていた先程のパトカーが炎を上げ燃え盛っていた。
そのパトカーの横からタンクトップとジーンズを履いた若い四人の男達がAK―47やグレネードランチャーをパトカーに向け乱射しながら近づいていく。
その表情は人ならざる人、醜悪に満ちた残忍なものだった。
「うわああぁぁー!」
「あっひゃっひゃっ!」
断末魔のように泣き叫ぶ警察官を前にしても四人の男達は狂乱しながら撃ち続ける。
ジェイルは足が震え、その場で何もできずにいた。
そこで一人のAK―47を手にした男がジェイルに気付く。
その男はジェイルに銃口を向けると、ジェイルは恐怖に駆られながらも死に物狂いで走り出した。
そこから数えきれない発砲音が鳴り響く。
ジェイルは当たる事を覚悟していたが幸いにも距離があったせいか、当たらずにいた。
何発もの弾がジェイルの横を掠めていく。
死んでたまるか、と心の中で何度も叫び続ける。
そんな中、何とか危機を乗り越えたジェイル。
肩から息をし、全身から感じる恐怖が抜けきれない。
とてもではないが生きた心地がしなかった。