2章 生者の血を求めて 10話
ジェイルは息を吐き捨て、気持ちを切り替え、ガーウェンなら何か知っているのではないか? と思い酒場に戻る事にした。それに酒場で総督の情報も何か得られるのではないか、と思ったからだ。
「よう、そこの兄ちゃん。俺らと楽しいパーティーといこうぜ」
アランバの家を出てから二分も経たない内に、二人の人相の悪いゴロツキ達に絡まれたジェイル。
ジェイルは嫌気がさすような表情になり深いため息を吐きだす。
「オラッ! やっちまえ!」
腰にある剣を抜き襲ってくるゴロツキ達。
ジェイルは向かってくるゴロツキ達に先程アランバから貰った極臭スプレーを噴霧した。
「ぐわー!」
泣き叫ぶような声を上げて、その場で咳き込み、苦るしむゴロツキ達。更にジェイルは、追い打ちをかけよう、とスプレーの匂いを吸わないように息を止め、妖魔の剣でゴロツキ達の上半身を斬った。
「鼻がもげそうだ。でも気持ちい。うっ、ああぁ」
激臭に苦しみながら妖魔の剣で斬られ、十倍の快楽に気持ちよさそうな喘ぎ声を上げ、身体をクネクネと動かすゴロツキ達。まるで飴と鞭だ。
そんな光景を見たジェイルは完全に引いていた。なんて気持ち悪い絵面なんだ、と。
その隙に、何とか逃げよう、とジェイルは背後を向き全力で走って逃げた。
そこからも先程のゴロツキ達以外にも、二十七回の襲撃に遭っていたジェイル。そしていつの間にか、スプレーも空になり、スプレー缶を石済みの家の隅辺りに放棄していた。
何とか危機を乗り越えたジェイルは酒場へと向かう。
酒場に着く頃には、ジェイルは呼吸が乱れ、ずいぶん疲労が溜まっていた。
額から垂れてくる汗をコートの袖で拭い取り、呼吸を整えるジェイル
この時のジェイルは、二十七回の連戦を経て剣の実力も大分、板に付いてきていた。
自分に実力がついてきた事に無自覚のまま酒場に入り、まずはガーウェンを探そう、と店内を見て回る。
相も変わらず酒を手に取り騒いでいるゴロツキ達。そしてジェイルは先程、飲んでいた場所に目線を向けると、未だに酒を飲んでいるガーウェンが居た。
ジェイルは、真っ先にガーウェンの所に行き、声をかける。
「おい、生者の血の情報を手に入れたぞ」
「ほう、やったじゃねえか」
吉報だと思っていたジェイルの言葉に、驚きもしなければ喜びもしなかったガーウェン。
「それだけか? お前も欲しがってたんじゃないのか?」
「俺はそんな事、一言も言ってないぜ。それよりもここを出るぞ。お前に合わせたい奴がいる」
ガーウェンは残りの酒を一気に飲み干すと、ゆっくりと立ち上がり、「美味かったぜ」と店員にそう告げると、酒場を出ようと歩き出す。
「待てよ。俺が生者の血に付いてどんな情報を知っているか、知らなくていいのか?」
酒場を出ようとするガーウェンを呼び止めるジェイル。
何にせよある程度、提言するのが道理な気はするが。
「必要ない。それにお前が生者の血の情報を手に入れたと言うのは本当だろう。これでも俺は人を見る目はある方だ」
ガーウェンは生者の血に付いて一切触れる気はない、と口にする。しかし、その方がジェイルに取っては都合がいい。アランバとの約束を守れるからだ。