2章 生者の血を求めて 5話
冷たい風が吹いてくるのを感じる二人。
「初対面の相手にこんなこと言うのは変な話だけど、僕は確かに人を‥‥‥殺めた事がある」
数秒の沈黙の後にヨシュアは声を振り絞るようにそう言うと、ジェイルは冷たい視線をヨシュアに向ける。
「僕の大切な人を助けるためには致し方なかったんだ!」
ジェイルの冷たい目に気付いたヨシュアは少し興奮した状態で弁明し始める
「何が致し方ないだ。人殺しは人殺しだ。そこに悪意も善意も関係ないんだよ!」
自分が殺された事と重ねてしまい怒鳴るジェイル。しかし言っていてどこか自分に対し、嫌悪感を抱いてしまう。
これから他者を抹消しようとするジェイル自身にも言っている気がしたからだ。
そんなジェイルの顔から目を離さないヨシュア。
「聞いてくれジェイル。僕の恋人は強姦されそうになった。しかも一度や二度じゃない。その度に僕はこの手を血で染め上げてきた。あの悪魔の世界から来た君にも分かるだろ。あの世界で人を助けるには致し方ない事もあると!」
顔を近付けながら口論するジェイルとヨシュア。
「お前が人を殺した理由なんてどうでもいい」
怒りが収まらないジェイルはこれ以上話してるのも馬鹿馬鹿しく思い、その場を去ろうとした。
ヨシュアを横切り、他の行く道を探そうとするジェイル。
「待ってくれ。もし困っている事があるなら協力する。」
前を歩くジェイルの前にまで走ってきたヨシュア。あの流れで助力を申し立てて来るとは余程のお人好しなのだろう。
「なら、生者の血について何か知っているか?」
他に当ても無かったジェイルはヨシュアに生者の血について聞いてみた。
「……いや、僕は知らない。でも知っていそうな人物になら心当たりがある」
「誰なんだ?」
「ここから南西に十分程、歩いた所に赤い煙突の家がある。そこにアランバと言う男性が居るんだ。その人なら何か知ってるかもしれない」
嘘を言っているようには思えなかった。今でも真剣にジェイルを見る姿勢は変わらずにいたので、その言葉だけは信用する事にしたジェイル。
「……このまま進めば酒場がある。そこでなら殺される心配はしなくて済むぞ」
ジェイルは教えてくれた事への感謝に、と思い、ヨシュアに酒場の事に付いて話してあげる事にした。
それを聞くとヨシュアは少し意外そうな表情になったが、すぐに笑顔になり、「ありがとう」と口にした。
「君に神の加護がある事を祈ってるよ。それじゃ」
そう言うとヨシュアはジェイルを横切りその場から去っていった。
「地獄に神なんて居るわけないだろ」
ジェイルは暗い表情でぼやくように言う。そして、重い足取りで歩き出した。