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2章 生者の血を求めて 4話

 外に出てからのジェイルは周囲を警戒しながらゴロツキのいなさそうな場所を探しては、そこを通るようにしていた。


 石積みの家や木造の家などの陰には隠れ、移動するなど、何度も繰り返す。


 何とかゴロツキに出くわさず移動出来ていたが、手掛かりを探すにしても人と接しなければならない。しかし基本、罪人だらけの地獄の住人に()(とも)な人間などいない。バロックやガーウェンのような話しの通じる人間ならまだしも、快楽を求め傷つけ合い、殺し合うクレイジーな人間が圧倒的に多い。


 どうしたら話の通じる人間と出会えるのか? と思案していると……。


 ―—ドン。


 思案していたせいで周囲の警戒が(おこた)ってしまい、ジェイルは、頭部に何か硬い物がぶつかった。そして額が気持ちよくなるのを感じる。


 「「―—あ」」


 気持ちよくて思わず声が漏れだすジェイル。しかしその声はジェイルだけではなく、もう一人の人間からも同じく聞こえてきた。 


 一体何だ? と思い前を向いてみると、ブロンドの短髪で実直な印象の顔立ちの青年が本を片手に戸惑っていた。


 「―—すまない。本に夢中で気付かなかった」


 なんと、ぶつかって真面(まとも)に謝る人間が目の前いた。その事にジェイルはこの地獄で初めて感動した。


 「こっちこそすまないな。ちょっと考え事しててな」


 ジェイルも自分にも非があると思い謝罪する。するとその青年は希望でも見つけたかのように目を輝かせ、ジェイルの近くにまで迫ってきた。


 何だ? と思い戸惑うジェイル。


 「こんな事を聞くのは変かもしれないが、君は()(とも)な人間なのか⁉」


 ジェイルは、自分と同じく地獄の人間に不信感を抱いている同士だ、と思い身を乗り出してくる青年の熱い言葉の意味を瞬時に理解した。


 「この世界で真面(まとも)、て言うのも変だが、少なくとも話は出来る方だ」


 「話が通じるならそれで十分だ! 僕はヨシュア・ベネティック。君は?」


 ヨシュアは嬉しさの余り握手をしようと、片手を伸ばす。


 「ジェイル・マキナだ」


 しかし、ジェイルは少し警戒しながらヨシュアの手を握った。


 いくら外見が好印象のような青年とは言え、ここは罪人だらけの地獄。つまりこの男も罪人と言う事になる。


 しかし、自分と同じ(きょう)(ぐう)の人間もいるのではないか? と思ったジェイル。


 「ジェイルか。君に聞きたい事がある。パーラインと言う女性を見た事がないか?」


 ジェイルの両肩をがっしりと掴んできたヨシュアは真面目な表情だった。


 しかし、地獄に来てからと言うものの、男にしか会っていないジェイル。


 そんな事を思いながらジェイルは見ず知らずの男に肩を掴まれた事に不快感を抱き、引きつったような表情になる。


 「―—いや、見てないな。と言うかいい()(げん)(はな)せ!」


 鬱陶(うっとう)しくなりジェイルは両手でヨシュアの両手を振り払った。


 「ああ、すまない。……そうか。知らないか」


 それを知ったヨシュアは落ち込んだ表情で俯く。


 そんなヨシュアを見て、少し(やっ)()になった事に、良心が痛んだジェイル。


 「お前、何やらかして地獄に落ちたんだ?」


 ジェイルは少し話題を変えようと何気なく質問する。


 しかし、あまりデリカシーの無い内容。


 「いや、それは……」


 するとヨシュアは急に歯切れが悪くなった。


 ジェイルは、もしや人を手に掛けた事があるのか? と思いヨシュアに(いぶか)しい目を向ける。


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