2章 生者の血を求めて 3話
「なるほどな。つまりお前は自分を殺した相手に復讐したいって事か」
「……ああ、そうだ」
言い終えるとジェイルは辛い思い出を掘り起こしてしまった事に、気分を害する。少しでも気分を晴らそうとウイスキーを一気に飲み干した。
「まあ、そんなクズヤローは間違いなく地獄に落ちるだろうな。だがここで殺しても結局は快楽を与え蘇るだけだ。復讐どころか、娯楽を提供してやるのと変わらないぞ?」
「ただ殺したいんじゃない。……抹消したいんだ。奴を――」
語りだしてからと言うものの、怒りのせいで、酒の酔いも回ってこないジェイル。口にするのは自分を殺した相手を消してやりたい、と言う復讐心のみだった。
「アハハハハッ! 抹消と来たか! そうか、そうか。アハハハハッ!」
ウイスキーを溢す程、腹を抱えて笑い出すガーウェンに思わず睨みつけるジェイル。
「やはりお前は面白いな。なるほど抹消か。そんな事を地獄で考えてる奴なんてお前ぐらいだろうな」
ウイスキーを一口飲むガーウェン。そして店員はジェイルの空になってるグラスにウイスキーを注いだ。どうやら今すぐにでも飲ましてやらないと怒りで暴れだすのではないか、と思ってたらしい。
ジェイルもウイスキーを一口飲み気持ちを落ち着けようとする。
ジェイルが怒っているのは、ガーウェンに笑われた事だけではなく、死んでいる人間を抹消してやりたいと言う矛盾を口にしている事にもあった。
一縷の望みも無い、夢物語を語っているのではないか、と思う程。
ジェイルはグラスを見つめ、どうしたらいいのか? と思い詰める。
「……生者の血」
「――ん、何だって?」
遠くを見つめるような目で突然、聞いたことも無い言葉を口にするガーウェンにジェイルは渋い表情でガーウェンの前に軽く身を乗り出す。
「お前が言う抹消する方法だ。それには生者の血が必要なんだ」
驚愕するジェイルの心に希望が芽生え始める。
「何だよ、その生者の血、てのは?」
「生者の血は死者を生者にし、また死者を抹消できる代物だ。お前の場合は後者だろうがな。しかし、それを手中に収めるのは、ほぼ不可能だ。生身の人間が何百年と言う月日を生き抜くぐらいにな」
その言葉にジェイルは肩の力が抜け、深く俯く。胸の内から湧きだした希望の潮が干潮したかのような。
「ジェイル。とにかくこの辺りで情報を探ってみろ。もしかしたら何か分かるかもしれない。分かった時には、ここにもう一度来い。その時には俺がその経路に案内してやる」
ガーウェンはウイスキーの残りを飲み干し、店員にウイスキーを注がせる。
「分かったよ。でもあんた、何でそこまで俺に付き合ってくれるんだ?」
首を傾げるジェイルは思った事を口にした。
「何度も言わせるな。気まぐれだって言ってるだろ」
そう言いながら、不敵な笑みを浮かばせるガーウェン。何か裏があるのではないか、と勘ぐってしまうジェイルだが、今は少しでも協力者が必要だ、と思い、深くは考えず、席を立ち酒場を後にした。