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2章 生者の血を求めて 2話 

 しかし、ジェイルの中で何かが引っかかっていた。自分を助けて何のメリットがあるのか? と。


 「まあ、そう気に悩むな。とにかくジェイル。俺はお前に興味がある。その目的とやらを聞かせろ。一人でやるよりも、誰かと組んだ方が良い。俺はそこいらの奴よりも情報は豊富だ」


 自慢げに語るガーウェン。


 しかし、ガーウェンの言う事も(もっと)もだ。そう思ったジェイルは自分の目的を口にしようとした。


 ――しかし。


 「殺せ! 殺せ!」


 「そうだ。俺を殺せよ!」


 近くで別のゴロツキ達が大声を上げ、殺しあっていた。


 「ここじゃ落ち着いて話も出来なさそうだな。ジェイル俺に付いてこい。落ち着ける場所で話をするぞ」


 「……分かった」


 ガーウェンの言葉に、少し躊躇(ためら)うも、ジェイルはガーウェンの後に付いて行くことにした。


 荒廃の大地でゴロツキ達が()(えつ)しながら殺しあう光景は、欲望と悪が一体となり具現化した人ならざる人。弱肉強食の模範となるような獣以上に(たち)が悪い。


 ここでは弱者も強者も居ない。居るのは、飢えた野蛮な獣以下の異端者達。


 いつからかジェイルの心は(あい)(じょう)で満たされていく。


 雑に建てられ傷ついている何軒もの石創りの家を横切って行く。


 その石積みの家からは抗争の跡が見て取れる。


 歩きながらジェイルは、また絡まれるのではないか? と周囲を警戒する。


 そんな時に偶然、人相の悪いゴロツキ達と遭遇したジェイル達。

 

 ジェイルは思わず身構える。


 しかし、何故がゴロツキ達はこちらを襲ってこない。それどころか、こちらを見ては驚き、避けるように石積みの家の周辺から去って行く。


 ガーウェンに、何故襲って来ない所か逃げて行ったのか、聞いてみると「気のせいだろう」と話を逸らす。


 ジェイルはこれ以上話しても無駄か、と思い、それ以上の事は詮索(せんさく)せず、ガーウェンの後を付いていく。


 着いた先は木造で出来た、大きい酒場だった。地獄に酒場と言うのも変な物だ、と思い、ジェイルは複雑な心境でガーウェンと共に酒場に入った。 


 中でもゴロツキ達が騒いでいた。


 しかし、外でのゴロツキ達と違った点が二つあった。一つは酒を手に取り騒いでいた事。外でのゴロツキ達は、武器を手にし、殺しあっていたのに対し、ここでは酒を手にして騒いでいるだけ。そして一番驚かされたのが、殺意がない事だった。


 酒場だから当然と言えば当然だが、外との様相(ようそう)の違いに気持ちが落ち着かないジェイル。


 店内のカウンターに進み、ガーウェンの隣の椅子にジェイルは腰を掛ける。


 「()ずは一杯やろう」とガーウェンが言うと、身なりの整った黒いスーツ姿の店員にウイスキーを注文する。


 ジェイルは外とは違う奇妙な違和感に戸惑いながらも、運ばれてきたウイスキーを手に取る。


 そして、ガーウェンが、ウイスキーの入ったグラスをジェイルの前に出してきた。ジェイルはためらうも、そのグラスに自分のグラスを軽く叩き景気のいい音を鳴らせる。


 「それにしても、なんでここの連中は俺達を襲ってこないんだ?」


 酒場で騒ぐゴロツキ達を見渡しながら心に引っかかっている疑問をガーウェンに聞いてみるジェイル。


 「このリンダルトでは牢獄の中と、酒場での殺しは厳禁なんだ。つまりこの町の総督の数少ない法でその二カ所は守られている」


 まさか地獄に法があったとは、と驚くジェイル。それを聞いて少しは心にゆとりが持てた。


 「それじゃ聞かせてもらおうか、一体お前の目的は(なん)なんだ?」


 ガーウェンが本題に入ろうとすると、ジェイルは少し目を横に逸らし、思い切って、殺される直前からの(けい)()を暗い面持ちで語りだした。


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