10章 明かされる真実と記憶 5話
ジェイルはこれ以上オキディスを呵責しても仕方ない、と思い始め、一度自分を落ち着かせよう、と深呼吸する。
「この話はもういい、それよりその手紙の主とはそれ以外に接触はしなかったのか?」
先程の手紙の送り主が気になっていたジェイルは話を切り替える。
「直接な接触は一度も無かった。指定されたポストで手紙のやり取りをするぐらいだ。そしてその者は、地獄の人間を材料にしたいと言う事で、私は頻繁にガーウェンの元に行き、廃人化の人間達なら渡してやると言う奴の取引に乗った。廃人化の人間なら無抵抗なため、都合も良かった」
材料にされた、と言う事は、あの廃人化の人間達はもう帰らぬ人となったのか、と脳裏で捉えるジェイル。
「お前やっぱりろくでもないな」
呆れた表情で言うジェイル。
そして、本当に今更だが、そのろくでもない人間にはガーウェンの顔も浮かんでいた。
泣くのを堪えながら唇を噛みしめるオキディス。
だが、今度はオキディスに憐れむ気持ちは抱かなかったジェイル。
「ああ、心底そう思う。そして私は生者の血は造血できなかったが、邪神の血を造血する事は出来た」
「地獄の人間と天使界の人間を抹消できる血の事だろ?」
ジェイルはブルンデのコアに刻まれていた文字を思い出し、確認のため聞いてみた。
「そうだ。そしてその研究結果を手紙に書き元来の生者の血を造血するために天使界の人間達を材料に使えないかと手紙に書き記した。それから数日後に、私はブルンデの生息地を君に口外した事と人体実験の容疑者として捕まった」
徐々に興奮し始めるオキディス。
「それだけ聞いたらどう考えてもユエルが怪しいよな」
邪神の血が完成し、天使界の人間を材料にしたい、と分かった途端、名も姿も知らない人間が名乗りを上げ、オキディスを吊るし上げる。
つまり、そんなタイミング良く証拠の手紙を手にし、オキディスを裁いたユエルが怪しいと言う事になる。
「私も同意見だ。ユエルには何か見透かされているような気さえする。そもそも、あの最初に来た手紙をそのまま投げ捨てて置けばこんな事にはならなかった。私のくだらない野心が今の結果を招いた。‥‥‥本当に私はいつまで経っても学習しないな」
辛い表情で話しながら徐々に俯いていくオキディス。
興奮したり泣いたりと、情緒不安定としか言いようがない。
「‥‥‥なあ、最後に一ついいか?」
これ以上オキディスに聞くのは申し訳なさそうな気持ちになってきたジェイルだったが、意を決して聞いてみる。
「ああ、構わない」
切ない表情で顔を上げるオキディス。
「生者の血以外に何かその手紙には書いてなかったか?」
ジェイルが気になっていたのは、ブルンデに刻まれていたはずの文字を剣で傷を付けられた、元の文字の事だった。
幽界の地を滅ぼしかねない生者の血以上に危険な情報。
手紙の送り主が生者の血に付いて知っているなら、その事も書かれていたのではないか、と思ったジェイル。
「いや、それ以外は特に何も書かれていなかった」
「‥‥‥そうか」
真面目な表情で答えるオキディスにジェイルは嘘はついていないと思った。
「それと些細な事かもしれないが、私の部下の一人があの日、君達と会った者の名前をユエルに告げ口していた。だから君が裁判にかけられる前に君の名前はブルンデ殺しの断罪の対象者と共に氾濫していた。……すまない。何から何まで君や君の父親には顔向けが出来ない」
悲し気な表情で深々と頭を下げるオキディス。
「それは別にいい。それより何とかしてここから抜け出してユエルの奴に問いただしてやりたいぜ」
オキディスの謝罪を少しは受け入れたジェイルはぶっきらぼうにそう言うと、真実を知っていそうなユエルが頭に強く思い浮かび、落ち着かない様子になる。
「‥‥‥よし。君をここから出そう」
何としてでもここから出たい、と言うジェイルの様相を見たオキディスは何か覚悟を決めたかのような表情をする。