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10章 明かされる真実と記憶 4話

 一般的にはメリットがあるからこそ他者が他者を必要とするものだ。


 ましてや地獄の人間が(てん)使()(かい)にとって何の価値があるのか?


 (てん)使()(かい)のと言うよりもこれはユエル個人に取ってオキディスには何かしらの利用価値があったのでは? と推測するジェイル。


 「それにしても今になって思うがユエルは怪しすぎる。確かに生者(せいじゃ)の血について研究していたが、あの手紙には私は名前など書いていない」


 オキディスはそう語ると困惑し始める。


 「あんな手紙、誰とやり取りしていたんだ?」


 ジェイルは率直に聞いてみた。


 「私が神官に任命されてから一か月後に、ある手紙が私の部屋に置かれていた。それには生者(せいじゃ)の血についての真相と、それを協同で造血しないかと言う提案だった。私は現世にもう興味はなかったが、上手く(せい)(じゃ)の血を造血する事が出来れば神にさせてやると言う文面の誘惑に抗えず誘いに乗ってしまった」


 後悔しているような表情を浮かばせるオキディス。


 「お前、色々やらかしてきたんだな」


 「うっ、ううぅ」


 思わず心根をぼやいてしまったジェイルにオキディスは耐えきれず泣き出した。


 「ああ、すまない。 それで(せい)(じゃ)の血はどうやって造血するんだ?」


 ジェイルは慌てて謝罪すると、オキディスが涙を(ぬぐ)い気持ちを切り替えた。


 ジェイル自身、(せい)(じゃ)の血に付いての情報は喉から手が出るほど欲しかった。


 「至って簡単だ。我々屍の血をただ濃縮すればいいだけだ」


 「濃縮⁉ まさか、そんな簡単な方法で手に入るなんてな」


 あっさりと口にするオキディスにジェイルはその秘密に別の意味で驚いた。


 「口にしてしまえば簡単だが、その手段があまりにも非人道的な残酷な方法なんだ」


 オキディスはどこか空虚な瞳になる。


 まるで鮮烈な過去でも思い出したかのような表情。


 そんなオキディスを見てジェイルは聞くべきか、と悩んでしまう。


 「……その方法は?」


 思い切って聞き出そうとするジェイル。


 緊迫した空気が宇宙空間の虚無の世界を支配し、音一つ聞き取れない静寂となる。


 「……一つの肉片も残さず酸で溶かし、そこから抽出した血の余分な水分を()()させる。グロブリンやアルブミンなどのタンパク質、つまり何人もの人間の固形成分を煮たし濃縮させた物が(せい)(じゃ)の血へとなるんだ。正確には、私がそれで造血できるのは(じゃ)(しん)の血だけだが」


 (けい)(がん)した眼差しで語るオキディスの言葉を聞いたジェイルは深いため息を吐いた。


 これではジェイル自身の手によって造血する事は到底できない残酷な手段。


 こんな嗜虐な人格者でしか出来ないような方法をオキディスは続けてきたのか、と怒りを通り越して嘆きたくなるような気持になるジェイル。


 「……生者の血の材料に使われた人間はどうなるんだ?」


 (へい)(そく)された口を開いたジェイルは弱々しい声でオキディスに聞いた。


 今度はオキディスが俯き口を開くことを躊躇(ためら)っている様子だった。


 そして、その口はゆっくりと開かれた。


 「……無責任に聞こえてしまうが、その事に関して私は知らされていない」


 「ふざけるな! 材料にされれば誰がどう聞いても失う物と解釈するに決まってるだろ! あんただってそれぐらい察していたはずだ!」


 ジェイルは激怒し、その場で怒鳴り散らす。


 オキディスは材料となった人間の末路を承知の上で(せい)(じゃ)の血を造血していたはず。


 そう考えるとジェイルは怒りに震えていた。


 「やはり私の根本は堕落していた。ユエルの言う通り地獄で這いつくばるにも値しない。無価値どころか世界を腐敗させる下衆の極みだ」


 オキディスは傷心したような表情でこれ以上ないくらい自分を()()し始める。


 その(るい)(せん)には(なみだ)が溢れていた。


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