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33.推しでも弟でもない感情




 血の繋がらない弟。


 まさか叔父の子どもではなく、不義の子だとは思いもしなかった。


 ジョシュアに「姉様には伝えておきたかったから」と言われ、全てを話し終えたタイミングで屋敷に到着した。


 答えを急かすような素振りはなく、ジョシュアはいつも通り自室へと向かっていった。私も自室に戻り、一人横になって先程までの話を考えていた。


(……乙女ゲームでも、そこまで出生に関しては語られなかった。重要なのは、生まれ育とうとした場所を二度も追われたキャラという位置付けだったから)


 でも今は違う。

 私が告白されたのは、自分の意思で生きるジョシュアなのだ。


(伝えておきたかったから、か……)


 何故そんな話をしたのか、ジョシュアは明言こそしなかったが、私には胸に響くものがあった。


(きっと……“弟”という枠から外れたいという気持ちがあるんじゃないかしら)


 エリーザ様からの話を聞いて、自分の答えは固まっていることに気が付いた。


(……でもまだ、私はどこかジョシュアを色眼鏡で見ている気がする)


 推しだから、弟だから。


 ジョシュアが求めている答えは、そこには一切ないことだろう。それを理解すると、ジョシュア・ルイスという人間に対して、改めて考え直そうと決意した。


 立ち上がり、机へと向かうと新しいノートを取り出した。乙女ゲームの知識が書かれているものとは別物だ。


 ペンを片手に、早速書き込み始めた。


「ジョシュア・ルイスの良いところ」


 後継者教育を続けている所。


「そう言えば弱音を吐いたことは一度もないわ。……それに、サボっている所も見たことない。ルイス家に来てからはずっと、絶え間なく努力をし続けてる」

 

 元が優秀だから、と言えばそこまでになるがそうだとしても継続できることは素晴らしいことだ。


「それに…………私の贈り物を嫌がらないで受け取ってくれる」


 よく考えてみれば、毎回似たような眼帯を渡せば飽きるものだ。しかし、ジョシュアはそんな素振りを一切見せず、必ず毎回嬉しそうな笑顔で受け取ってくれるのだ。


「感謝までしてくれたもの」


 自分のエゴとも言える推し活を幸せとまで称してくれる人は、そういないだろう。


「そうそう、何よりも瞳が世界で一番綺麗だわ」


 眼帯で隠すのは惜しい程、ジョシュアのオッドアイは実物を見ると興奮するほど美しかった。初対面では、その態度を隠しきれなかったにもかかわらず、普通ならドン引きすることをどこか嬉しそうに見ててくれた。


「……ジョシュアは私のことを家族思いと言っていたけれど、貴方だってそうじゃない」


 お父様とお母様はもちろん、何よりも妹のエリシャに対する面倒見はこれ以上ないほどに良い。


 その他にも、気遣いが完璧な所や推し活をドン引かなかった所など、思い付くものは全て書き記した。


「思った以上に書けた……」


 パラパラとノートを見返しては、自分の気持ちを整理していった。


「……反対も書かないと。ジョシュアの悪い所をーー」


 そう言って、動かそうとした手は止まった。


「悪い所なんて……一つもないわよ」


 完璧といえるほど、悪い部分なんて私からは見えないほど、ジョシュアには良い部分しか見当たらなかった。


 改めて書き込んだノートを見返そうとすれば、もうページがない程書き込んだことがわかった。


「……もしかして私って、ジョシュアのことが凄く好きなんじゃないかしら?」


 いや、今さら何を言うかと思うものだが、この“好き”は推しだから、弟だからの“好き”ではないと浮かんでいた。


「……異性として」


 意識したことはなかった……というよりも、そんなことをしてはならないとどこか線引きをしていたのだ。


(この線引きも、もしかしたら不要なんじゃ……)


 ジョシュアに対する思いが、どんどん明確化していく気がした。


(本当に異性としての好きなのか……今こそ検証すべきよ!!)


 そう思い立つと、私は勢いよく立ち上がって自室を後にした。


(今、整理がつき始めた状態でジョシュアに会えば……気持ちが確定する気がする)


 この予感は必ず当たる気がした。その思いを胸に、ジョシュアの部屋へと急ぐのだった。


(着いた…………)


 ノックするための手を用意し、扉へと近付ける。


(な、何だか緊張する……おかしい。普段ならこんなことないのに)


 下ろしていたもう片方の手を、今度は胸に当てて深呼吸をした。そして、落ち着かせた心で部屋の扉を叩く。


「……」

(あれ……もしかしていないの? それとも寝ているとか)


 少しだけ不安を覚え、部屋の前で待つべきか考えた末に、ほんの少し扉を開けて中を伺うことにした。


「ジョシュア……?」


 あまり気配を感じられない部屋は、夕日が差し込むだけで人影は見当たらなかった。


「入っていいのかしら」


 心は悩んでいるものの、足は答えを出しており、そっとジョシュアの部屋に踏み込んだ。


「……やっぱりベッドにもいないのね」


 寝ている可能性を考えたものの、そこは無人だった。そっとベッドから離れようとした瞬間、人影に驚いてしまう。


「わっ! ……何だ、私ね」


 それは鏡に映る自分であり、まだジョシュアは戻っていなかった。


 しかし、その鏡越しに見えたあるものが私を釘付けにさせた。


「…………え?」 


 少しの間凝視すると、後ろを振り替えって実物があるか確認し始めた。


「これは……グッズ?」


 

 

 


 

 



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