24.思いもよらぬイベント発生!?
姉様がいいんだ。
ジョシュアの一言は、私の思考を停止させるのに十分な破壊力を持っていた。
(…………そんな)
まさかそこまで直球的な言葉を言われるとは微塵も思っていなかった私からすれば、ジョシュアの言葉を噛み砕いて理解するのには時間がかかった。
そして、ようやく理解が追い付くと堪えていた笑みが、顔のにやけとなって出てきた。
(う……嬉しすぎる……推し公認のケーキだなんて!!)
抑えようと努めるものの、口元が緩んで仕方ない。
「あ、ありがとう、ジョシュア。私これからも頑張ってケーキを作るわね……!」
「……うん、楽しみにしてる」
にっこりと微笑まれると、私は舞い上がる気持ちを抑えるために胸に手を当てた。
「…………これくらいじゃ駄目か」
ジョシュアが一人呟いた言葉は、私の耳までは届かなかった。
「それじゃ、次に行こうか」
「次? まだ何かあるの?」
「うん。姉様を連れて行きたい場所があるんだ」
「そうなのね」
ケーキを食べ終えた私達は、再び馬車へと戻って次の目的地を目指すのだった。
専門店のある通りを抜けた先には、大きな公園があった。
「着いたよ」
「ここは……」
ジョシュアのエスコートで馬車を降りる。そして、目の前に広がる美しい花畑の景色に私は圧倒されるのだった。
「コスモス畑……!!」
紅色のコスモスから桃色のコスモス、そして白色のコスモスと美しいグラデーションのように咲き誇るコスモス。辺り一帯が全てコスモスに包まれており、壮大な美しさが全身に伝わってきた。
「凄いわ……! こんなに素敵な場所があっただなんて」
「喜んでもらえて良かった」
「えぇ、とても嬉しいわ!」
家の中では決して見ることができない、美しい自然の景色。暖かな日差しと、雲一つない晴れ空がよりコスモスの鮮やかさを際立たせていた。
「……向こうには黄色のコスモスもあるみたい。行きましょう、ジョシュア!」
「あ、う、うん」
まるで童心に返ったかのように、わくわくとした気分に包まれていた。その嬉しさから、無意識にジョシュアの手を引いて足早に歩き出す。
「本当に綺麗ね……それに落ち着ける優しさもあるわ」
「綺麗な花はずっと見ていられるよね」
「えぇ、本当に」
コスモスに囲まれながらジョシュアを見れば、彼もまたこの景色を堪能しているように見えた。
「……はっ!!」
「どうしたの、姉様?」
「ジョシュア、あちらに行きましょう!」
「あちらって……ま、待って」
ジョシュア越しに見えたコスモス目掛けて、再び手を引いて向かった。
「これは……」
「青色のコスモスもあっただなんて驚いたわ……うん。ジョシュアによく似合うわ」
「……そう?」
「えぇ。凄く神秘的よ」
(これは絶対後で推しグッズにしないと)
さすが、青色が担当色であるジョシュアだけあって、青色のコスモスとの相性は抜群だった。
(でも……コスモスって確か、青色は無いはずなのに。……異世界だから関係ないのかしら?)
少し疑問を浮かべるものの、目の前の推しとコスモスの組み合わせに対する興奮には勝らなかった。
「ジョシュア、良ければこのコスモスの前に立ってくれない? 貴方に凄く合うと思うから」
「もちろん構わないけど」
目に焼き付けて、推し活に生かそうと決めた私は、ジョシュアの姿をじっくり観察した。
(青色の花畑にジョシュア…………どこかで見た気がするわ、この光景)
堪能しようとした矢先、引っ掛かりが大きく出てきてしまった。
「姉様」
「とっても良く似合っているわ! まるでジョシュアのために作られたみたいーー」
その瞬間、疑問と引っ掛かりでできたモヤが一気に晴れていった。
(これ……この青色のコスモスって……)
重大な事実に気が付いた私は、大きく目を見開いてしまう。
「エンドロール……」
それは、ジョシュアルートを選択してハッピーエンドに終わった後に、エンドロールで流れてくる風景の一つだった。
(そうよ……そうじゃない! ここは本来、ジョシュアがヒロインとエンドロールの後に、結ばれた後に来る場所!!)
重大な事実に気が付くと、私は一気にどうして良いかわからなくなってしまった。
(そんな、ヒロインと来る重要な場所と機会を私が奪ってしまったということ……!? 何てことを……! いや、それにしてもどうして!? ここに来ることは、エンドロール後以外無いのにーー)
突然の出来事に、私は表情管理も忘れて一人であたふたしていた。
(……こ、こうなったら。カウントしなければ良いのよ! 私がジョシュアと来たのは本当に偶然なのだから!)
ゲームと現実が頭の中で混在し、混乱していると、自分の思考と言葉さえもこんがらがり始めてしまった。
「姉様ーー」
「そうね、これは聖地巡礼だわ……」
あくまでも私は、エンドロール後とはいえイベントの発生を潰したのではなく、個人的にここを訪れたのだ。そう言い聞かせて思考することで、自身の困惑をおさめようとした。
「姉様」
「ジョシュア……」
いつの間にジョシュアは、青色のコスモスから離れて私の前へと戻ってきていた。
「大丈夫?」
「え、えぇ。ごめんなさい。久しぶりの外出で、少し疲れたのかもしれないわ」
不安げな顔を浮かべるジョシュアに、申し訳なさを感じてしまう。
「でも大丈夫よ。もう少し花畑を楽しみましょう! せっかく来たのだから」
「うん……」
「ジョシュア……?」
手を引こうとすれば、ジョシュアは戸惑うように目線を下げた。かと思えば、私の瞳を捉えた。
「姉様。……聖地巡礼って何?」
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