07.推しグッズを作りましょう!前
一週間後、お母様の部屋を再び訪れることにした。その間は観察だけしていたのだが、お母様は書斎突撃を本当にしなくなっていた。
(……ちゃんと推し活の鉄則を守ってる)
その事実が嬉しくて、笑みがこぼれそうになっていた。ノートにその経過を書いていると、お母様が私の部屋に来訪した。
驚きなからも迎え入れて、向かい合って座る。
「どう、されましたか……?」
「イヴちゃん。私、そろそろユーグリット様にお会いしては駄目かしら……」
「!」
嬉しさを噛み締めた所でそう言われたので、少し胸が苦しくなった。
(でも……よく考えたら、あのお母様が一週間も我慢できたのよね。これは称賛すべきだわ)
ずっと無理矢理にでも会っていた存在に会わなくなるのは、確かに心理的負担が大きいなと思ってしまった。ノートのページを少しさかのぼると、そこにはここ数日考えていた案がびっしりと書き込まれていた。
(これを試してみよう)
今の状況と上手く紐づけられるように、その中から瞬時に一つ選ぶと、お母様に返答した。
「……お母様。お会いしたいお気持ちはよくわかります。ですが、推すことをすすめた身としては同意できません」
「………………それは、普通にお会いするのもかしら」
「はい。今はまだ、普通にお会いすることができないと思いますから」
「!」
お母様の普通と、私の言う普通はきっと違う。
私の考える普通は食事を共にする程度や、挨拶を交わす程度のことを言っている。けれどもお母様の普通は、恐らく会うだけでは終わらせず畳みかけるように話しかけることを意味すると思うのだ。
「お父様は今お忙しい時期でもありますから、もう少し経ってからにしませんか?」
「……………そうね。ご迷惑をかけてはいけないわ」
ぐっと考え込んだお母様は、葛藤されているようにも見えたが、私の言葉を受け入れてくれた。その反応は、私達の普通に対する認識の違いに気が付かれたようにも見えた。
「ですので。ここで一つ、新たな推し活をご提供できればと思います」
「新たな推し活……?」
興味ありげに聞いてくれる、それだけで私は胸が一杯だった。私はまたも黒板を急いで持ってくると、話を続けた。
「………はい。会えない思いが募るのは当然のことです。当然、お辛いかと思います」
「えぇ……」
「そんな時こそ、作りましょう」
「作る……って何を?」
「推しグッズです」
黒板に“推しグッズ”と書くと、その下に丁寧に二重線を引いた。
「推しぐっず?」
まるでわからないという表情と声色にを受けながら、私は立ち上がってドレッサーの引き出しに置いてある小さなぬいぐるみやストラップを持ってきた。
「こちらをご覧ください」
「まぁ、可愛い」
「実はこれ、私の手作りなんです」
「えっ」
この手作りという名の推しグッズ。実は手作りの腕を上げたのには理由がある。それは、ジョシュアに贈り物を作りたかったからだった。
仲良くなるにはプレゼントもしないと!
という思考の元、ジョシュアに喜んでもらえるようなものをいくつも作った。最初こそ何も受け取ってもらえなかったが、今では何でも受け取ってくれるようになった。この前の眼帯を渡した推し活から、これをお母様にも伝えようと思ったのがきっかけだ。
それとは別に、推しグッズとして密かに作るものもある。当然あまり人に見せられるものではないので、こっそりしまっているのだが、その一部をお母様に見せていた。
「これは趣味の一つでーー」
「凄いわ、凄いわイヴちゃん!」
「えっ」
具体的な説明するよりも先に、お母様がグッズを手に取って褒める方が先だった。まさかの反応に、私は驚きのあまり固まってしまった。
「よくできてるわね……私にもできるかしら」
既にやる気になっていることが嬉しかったが、同時に戸惑ってもいた。
「どうしたらこんなに精巧に、可愛く作れるのかしら」
正直、お母様にここまで言ってもらえるほどの力作ではある。前世の経験も踏まえて、推しグッズを作るのはもはや習慣だったから。
ジョシュアのイメージカラーである青をベースにした、小さなくまのぬいぐるみはそれこそ力作だった。
まだ九歳の体であるため、上手い訳ではないのだがそれでも最大限努力を重ねていた。それをお母様に無自覚でも褒めてもらうのは本当に嬉しいことだった。
ひとしきりグッズを眺めたお母様は、目を輝かせながらこちらを見つめた。
「ねぇイヴちゃん。この推し活、私に教えてもらえないかしら?」
「……も、もちろんですお母様!!」
喜びのあまり大きな声で反応してしまったが、お母様はまるで気にせず嬉しそうに微笑んでいた。
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