23.推しに誘われては断れません!
推しと出掛けるだなんて贅沢な話、果たしてこの世に存在して良いのだろうか。そう疑問が過るものの、誘いを断る理由も作り出せなかったため、私はジョシュアの手を取ることにした。
「姉様、着いたよ」
「ありがとう……」
到着したのは、最近話題になっているスイーツ専門店だった。
(やはりお祝いと言ったらケーキよね)
どこに行くか、という話になった時に私から一つ要望を出したのが“ケーキを食べられるお店”だった。
(ここ、ずっと気になってたのよね……まさかジョシュアが知ってるとは)
学園の帰り道にある専門店は、よく人が並ぶほど賑わいを見せていた。それを馬車越しに気になりながら見ていたのだが、まさか食べられる日がこんなに早く来るとは思わなかった。
「……今日は並んでないのね」
「あぁ、貸し切りにしたからね」
「えっ」
思いもよらない返答に、目をぱちくりとして固まる。ジョシュアの方を見上げれば、何ともない様子で微笑んでいた。
「さ、行こう。姉様、足元危ないから、良かったら僕の手を」
「え、えぇ」
貸し切りという強力な言葉に戸惑いながらも、店内へと足を踏み入れた。白と青を貴重にした内装はとても品があり、落ち着かせる印象を与えた。
日当たりの良い窓際を選ぶと、早速メニューを手に取る。
「美味しそうなケーキしかないわね……」
「そうだね。今日食べれなかった分は、また別の日に来ようよ」
「いいの?」
「もちろん。僕もケーキが好きなこと、姉様なら知ってるでしょ」
「そうね。じゃあ二人で全品制覇しに来ましょう」
「ははっ、姉様らしいね」
母様との推しケーキに始まり、ルイス侯爵家はケーキをとても好む家になっていた。特にお母様と私の推しケーキに対する熱量は異常で、二人でよくお店のケーキを食べながら、自身で作る上での参考にしているのだ。
「……制覇すると決めたなら、一番上から頼むとそれらしいわよね」
「確かにそうだね」
「それなら私は苺のショートケーキにするわ」
「僕も同じものを」
注文を終えると、早速お祝いの言葉をかけることにした。
「ジョシュアの肩の荷が一つ減ったのなら、とても喜ばしいことだわ」
「ありがとう。姉様の助言が的確だったから上手く行ったんだよ」
「偶然なのだけれど……でも嬉しいわ」
リスター嬢をよく知っている訳では無かったので、確信を持たない助言だった。それでも上手く行ったのは、ジョシュアの対応力が高かったからだろう。
「それにしても、ジョシュアがこのお店を知ってたなんて思わなかったわ」
「……見てたでしょ、帰り道にずっと」
「!!」
「興味があるんだろうなぁってずっと感じてたんだ。実際僕も来てみたかったから」
「そ、そんなにわかりやすかったかしら……」
「僕にとってはね」
「そう……」
(ガッツリと見た記憶はないのだけど…むしろチラッ、チラッ、という感覚で見ていたつもりだったのだけど……)
自分が思っているよりも見られているのだとわかると、少し恥ずかしくなってしまった。
(私、行き帰りの馬車で変なことしていないわよね? 大丈夫よね!?)
学園が終わるとすっかり安心しきって馬車に乗っている自覚があったため、今後は気を付けようと胸に誓った。
苺のショートケーキが運ばれてくると、早速食べてみた。
「!!」
「うん、美味しいね」
「凄いわ……! ただ甘いだけじゃなくて、しっかりと苺の酸味を際立たせた味の配分……、これ、上に乗る苺と中の苺が違う品種のものみたいね。なんて天才的な作りなのかしら……!!」
さすが話題になるだけあるお店で、ケーキの味は最高そのものだった。
「お母様にお教えしないとーーあっ」
「どうしたの?」
「ご、ごめんなさいジョシュア。私一人でぶつぶつと……」
「全然気にしてないよ。それに、そこまで分析しながら熱意をもって食べてくれる人はそういないから。ケーキもお店の人も、喜んでくれてるんじゃないかな」
「そ、そうかしら?」
「僕もね。楽しそうに食べる姉様が見たかったから、凄く嬉しいよ」
浮かべられた微笑みは、決して無理に作られたものでないことがわかる。心から喜んでいる姿に安堵しながらも、私は本来の目的を思い出した。
「はっ!! ジョシュア! これは貴方お祝いの席なのよ……ごめんなさい先走って」
「ケーキを食べに来たんだから。先走るも何もないと思うけど」
「それでもよ。……こほん。改めて、おめでとうジョシュア」
「ふっ。ありがとう、姉様」
二人で同じものを頼んだことから、感想を共有し合いながら美味しく食べられた。ケーキを食べる上で、ふと気になったことをジョシュアに尋ねてみた。
「ジョシュアは何のケーキが好きなの?」
「……姉様が作ってくれるケーキなら、何でも好きだよ」
予想外の答えに動揺してしまう。
「そ、そうなの? 私はそんなに腕が良くないけれど……ほら、このショートケーキと比べてもーー」
「比べるまでもないよ」
ジョシュアは私の疑問を遮ると、じっと私を見つめた。
「姉様がいいんだ」
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