プロローグ 十五歳になりました!
第二部開幕いたしました!よろしくお願いいたします!!
お母様の闇落ちを防いでから、六年の月日が流れた。
今日もルイス侯爵家は平和で、お母様と変わらず推し活をする日々を過ごしていた。夫婦仲は親密になるばかりで、バッドエンドからは遠ざかる毎日である。
そんな私も先日十五歳を迎えた。
そう、いよいよ乙女ゲームの舞台となる学園生活が始まろうとしていた。
「……学園か」
私は自室で一人、椅子に座ってあるノートと対面していた。
ノートの表紙には『宝石に誓いを~君のためのラブストーリー~ストーリー概要』と記されている。
「転生してすぐに、忘れないようにと記したのよね」
実はここ六年、バッドエンド回避でシナリオにない人生を過ごしてきたこともあり、自分が今生きる世界が乙女ゲームの世界だということを、ついこの前まで忘れていたのだ。
母オフィーリアに「そろそろイヴちゃんも入学するのね~」と一言言われて、初めて思い出したのだった。
(平和ボケとはこのことかもしれない)
それまでは、何気ない平穏な日々につかり過ぎていたので、ノートを取り出した今、気を引き締めていたところだった。
「乙女ゲーム、か。……ジョシュアも攻略対象なのよね」
そのジョシュアだが、もう既に乙女ゲームの設定と大きく変わり始めていた。その一つが、間違いなく私達ルイス侯爵家生存が挙げられる。この時点で、シナリオとしてジョシュアは正しいスタートラインに立てていない。ただ、それが悪影響を及ぼすのかまでは、私でもわからないのだ。
「ゲームの強制力って言葉はあると思うけど……だとしたら、私達は死んでいるだろうし」
今こうして五年以上もの間、生き延びられていることから、ゲームの強制力が強く働くことはないのではないかと思考し始めた。
「となれば、私はシナリオに逆らった状態で学園生活を送れることになる」
そんなことは考えもしなかったので、口に出すとどこか不思議な気持ちになってしまう。ただ、現実は入学を認められた立場なのだ。その証拠に、今日入学案内が届いていた。
「……ひとまず私の学園生活は置いておこう。今はシナリオの確認が大切だから」
そう呟くと、いよいよノートを開くのだった。
転生した当初の私は本当に優秀だった。少々つたない字ながら、日本語でシナリオの説明だけでなく各攻略者の分岐やその先のエンドまで、細かく書き殴られていた。
正直、この世界に馴染み過ぎたこともあって、今一からシナリオの全てを思い出すのは困難だと思っていたので、幼き日の自分に何度も感謝した。
「各攻略者もあるけど、やっぱりシナリオも含めると、ジョシュアルートしか勝たんなのよね」
どこか笑みをこぼしながら、ジョシュアルートに関してまとめられているページを読み込んだ。
攻略対象者名、ジョシュア・クラウス。その文字を見て感慨深い思いが浮かぶ。
「……この世界のジョシュアはルイスなのよね」
思わず上から線が引きたくなるものの、これも一つの重要な情報なので残すことにした。そのまま読み進めると、私は言葉を失った。
「あ……」
それは、ジョシュアという攻略対象者には悲運な結末が用意されているということ。
「そうだ……ジョシュアにはバッドエンドがある」
そのバッドエンドとは、ヒロインがジョシュアを選んだ末にヒロインの身に何かしらの危険が及ぶ、というものではなく。ただジョシュアが、選ばれたルート次第では自死を選んでしまうということだった。
「ま、待って。取り敢えず整理しよう」
シナリオ上のジョシュアとは、ほとんど天涯孤独のようなもので、信用できる家族も友人もいないような冷たい空気に包まれたキャラクターだった。そんなジョシュアの光となるのがヒロインという訳なのだが、ヒロインによって一定数好感度は上げたのに最終的に選ばれない場合は最大の裏切りを味わい生きる意味を失って自死してしまう。
だからと言って、攻略されないと光をそもそも見つけられずに苦しんで自死してしまう。
ジョシュアルート一択で攻略さえ始めれば、多少失敗はしても最終的には丸く収まるという形だった。
「……でも今、ジョシュアは寂しくないと思うけど」
自分で言うのもなんだが、ジョシュアには今温かな家族が付いている。信用できる友人ができるかは未知数だが、ゲームのような冷たい空気には包まれていない。
「大丈夫、だと信じたいけど」
ただ、ヒロインという存在と交わった時、ジョシュアにどんな結末が訪れるかわからないのも事実だ。
「そっか、ヒロインかぁ。今の状況に限らず、恋をして裏切られるようなことがあれば、それだけでもジョシュアにとってはバッドエンドよね……」
ジョシュアが学園生活を送る上で、ヒロインと交わるのはほぼ確定事項だろう。もし交わった時、どんな影響をもたらすかは未知数だとして、どうすれば最悪の結末だけにはならないか頭を悩ませ始めた。
「私にできること…………」
シナリオの登場人物ですらない、モブともならない自分にできることは何か。恐らく、圧倒的に何かを変える力はないと思う。何故ならモブ以下だから。
ジョシュアが穏やかな学園生活を過ごす上で、そんな立場の人間でもできることといえば――。
「やっぱり応援……推すこと、なのかな?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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