55.みんなでケーキを作ります!
「ユーグリット様。それにシュアちゃんまで」
くるりと振り向けば、そこにはお父様とジョシュアまで厨房へ来ていた。
「お父様にそう言われては仕方ありませんね。もちろんですよ、お譲りします」
「ありがとう、イヴェット」
そう告げると、お母様に下ろしてもらった。
「一番になれずとも、お母様は私を愛してくださいますから」
えっへんと胸を張ってお父様にそう言えば、ジョシュアが私の手をそっと取った。
「姉様には僕がいるから」
「そうね、イヴちゃんにはシュアちゃんがいるわね」
こてんと微笑むジョシュアの笑顔は、破壊力が凄まじいものだっだが、心を浄化される気分でその笑みを堪能した。
「オフィーリア、もしかしてケーキを作るのか?」
「はい、祝杯をあげようと思って」
「いいですね! 私もお手伝いします!!」
「僕もやりたい」
お祝いのケーキをお母様ご自身で作るようだった。
「私も一緒にいいか? せっかくなら全員で」
「もちろんです。一緒に作りましょう」
お父様の申し出に、嬉しそうに頷くお母様。その笑顔を見るだけで、私も恐らくジョシュアも喜びが芽生えるのだった。
こうして、ルイス侯爵家によるケーキ作りが始まるのだった。
「ユーグリット様、もう少しかき混ぜてくださると」
「もう少し……こうか?」
「はい! とてもお上手です」
ケーキの生地を作るお母様とお父様の反対側で、私とジョシュアは飾り付けに使えるようなトッピング作りをしていた。
「さすが姉様。手先が器用だね」
「あら、ジョシュアだって上手よ」
「……本当?」
「えぇ」
褒めてくれるジョシュアも、センスの良さがきらりと光っていた。真剣そうに手を再び動かし始めるジョシュアを見ながら、再び私は微笑む。
お母様とお父様の方もちらりと見ては笑みを深めていた。
(まさか……こうやって家族の時間を過ごす日が来るだなんて)
半年前の自分では想像もつかなかった光景。
だけど今体験しているのは、夢でもなく想像でもない、現実なのだ。
(……あ、ベリーがある)
調理台の材料を見れば、お母様が最初は紫色の推しケーキを作ろうとしていたのがわかった。
(今日は入れないのかしら?)
そう思っていれば、ベリーの方にお父様が手を伸ばした。
「これも入れる、であっているか?」
「あっ、それは……入れると見た目があまり」
「紫色になるんだろう? もし良かったらそうしてほしい。……私はまだ食べてないから」
「ユーグリット様……」
少し戸惑うお母様に、私はジョシュアの袖を引いて応援に回った。
「あのケーキすごく美味しかったので、また食べたいです!」
「……僕も」
「イヴちゃん、シュアちゃん……」
「オフィーリアさえよければ」
「…………えぇ、是非ユーグリット様に食べていただきたいですわ!!」
ぐっと決意したお母様は、ベリーを生地に投入していった。
(それなら、紫に合う飾りを作るべきね)
そう判断すると、私もジョシュアと一緒に再びトッピング作りに励むのだった。
そして生地が焼き上がると、お父様は感嘆するような声を出した。
「凄いな……料理はほとんどしたことがなかったんだが、生地はああいう風に膨らむのか」
「ふふ、面白いですよね」
「あぁ、凄く良いものを見れた。ありがとう、オフィーリア」
穏やかな空気が続く中、お母様によるケーキのデコレーションが進んだ。お父様は終止お母様の手さばき、というよりはお顔を見ていたが、それも含めて私はにこにこしながら両親を観察するのだった。
「……できました!」
「「わぁ……!」」
「とても美味しそうだ」
無事にケーキが完成すると、私達は全員食堂に移動してケーキをテーブルへと並べた。
お母様によって切り分けられると、早速ケーキを食べ始めるのだった。
「……美味しいな」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、凄く。今まで食べた、どのケーキよりも圧倒的に美味しい」
「そ、そんな。褒めすぎですユーグリット様」
「そうか? 私は一番好きなのだが」
「……ありがとう、ございます」
頬をほんのりと赤くさせながら、嬉しそうに微笑むお母様。私とジョシュアも当然美味しく食べ続けていた。
(推しに推しケーキを食べてもらえるのは……最上級の幸せですね、お母様)
一回目は自分で処理をするという、少し寂しい結果になったからこそ。こうしてお父様に食べてもらえるのは、お母様にとって掛け替えのない思い出になることだろう。
「……オフィーリア、また作ってくれるか?」
「!!」
気がつけば、お父様は誰よりも早くケーキを食べ終えていた。
「次もまた、一緒に作ろう」
「もちろんです……!」
幸せそうな二人を見ると、私まで嬉しくなった。
「姉様。お母様とお父様が幸せそうで良かったね」
「えぇ、凄く嬉しいわ」
私はジョシュアとも微笑み合うと、両親を見守りながらケーキを食べ続けた。
こうしてお父様にとっても、お母様にとっても、ケーキに対する思い出は温かなものへと塗り替えられたのだった。
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