54.有能なお兄様による報告会です
フォルノンテ公爵家主催のパーティーの翌日。今日はステュアートお兄様のみが、ルイス侯爵家を訪れていた。
「ーーという感じで、お二人とも力を合わせて頑張っていたよ」
「凄い……!! 自慢過ぎるお母様とお父様です」
「僕も誇らしいです」
部屋の中では、私とジョシュアがステュアートお兄様からパーティーでの詳細について教えてもらっていた。
お母様とお父様が、キャロライン様を打ち負かしたという結果のみ知っていた。
さすがに帰りが遅かったこともあり、トーマスに諭されて私とジョシュアは眠りにつくことにしたのだった。
目が覚めてみれば、今度は疲れに疲れた両親が眠りについており、ゆっくりと休んでいる状態たった。
起こすわけにもいかず、ジョシュア共に朝食を取り終えた矢先、ステュアートお兄様が訪問しに来てくれたという流れだった。
私はステュアートお兄様から聞いた話を想像しながら、少しだけ落ち込んだ。
「本当に生で見られなかったのが、一生悔やまれます」
「うん……確かにあの場面は、イヴが一番見るべきものだったね」
「戦うお母様……何よりお父様の姿が、僕も見たかったです」
「ジョシュアに取っても良い場面だったと思うよ」
前世でいう映像技術に関しては発達していないため、録画することも中継してもらうことも不可能だった。
なので、こうしてステュアートお兄様に報告してもらう形となったのだった。記憶力の良いお兄様のおかげで、お母様達のやり取りは一言一句ほとんど完璧に知ることができた。
「ですが、お母様だけでなくお父様まで戦い抜かれたのなら。……この事実だけでも満足です」
「あぁ。招待客の様子を見る限り、圧倒的に叔母様を支持する声で溢れていたからね」
受け取り方は人それぞれと言えど、キャロライン様の無茶苦茶な主張を支持する者はいなかったようだ。
ステュアートお兄様曰く、お父様の状況証拠という主張が全てであり、それを決め手にした貴族は多かったようだ。
「元々人気の高かった叔母様だからね。僕は知らなかったんだけど、デリーナ伯爵夫人はあまり良く思われていなかったらしい」
「……なるほど」
「それもあって、支持する人は皆無になったというところかな。あの様子では、社交界で新しく地位を築くどころか、信用を取り戻すことさえ難しいだろうね。……デリーナ伯爵夫人は、実質社交界を追放されたようなものだよ」
他者からの評価に固執して、お母様を振り回した挙げ句利用したキャロライン様。
彼女の価値観からすれば、社交界追放はもっとも苦しい罰だろう。
「そんなところかな。後は叔母様達に直接聞くと良いと思うよ」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます、ステュアートお兄様」
姉弟揃ってペコリとお辞儀をすれば、お兄様は静かにため息をついた。
「…………はぁ。こんなに可愛い妹と弟に、しばらく会えなくなるのは悲しいな」
「学園に戻られるんですよね?」
「あぁ、休みがもう終わってしまうからね」
となれば、次にステュアートお兄様に会えるのは少し先の話だろう。
「……手紙、書いてもいいですか?」
「ジョシュア…………もちろんだよ……!」
(わ、珍しい)
少し落ち込んでいたステュアートお兄様に、ジョシュアが恐る恐る提案した。
「お返事くれますか?」
「もちろん、すぐに送るよ。イヴもね」
「え? あ、はい。任せてください」
さりげなく振られたことで、私まで手紙を送ることが確定してしまった。
「……さて、そろそろ叔母様達が起きてくる頃じゃないかな?」
「もうそんな時間ですね」
時計を見れば、時刻は正午を指そうとしていた。
ステュアートお兄様は残りの時間を両親と過ごすと言って、フォルノンテ公爵家へと帰って行った。帰り際、ジョシュアと改めて約束していのを微笑ましく見ながら、馬車を見送った。
そして、私はお母様の部屋へ、ジョシュアはお父様の部屋へとそれぞれ向かうのだった。
(……声がしない、物音もしない)
まだ眠っているのなら、部屋に入ると邪魔になってしまうだろうと考える。
「おや、お嬢様」
ピタリと扉に耳を張り付けていれば、近くを通りかかったトーマスに名前を呼ばれた。
「トーマス」
「奥様でしたら、先程起きられましたよ」
「本当? ありがとう、トーマス」
「あぁ、お嬢様。奥様は部屋の中ではなく厨房に」
「厨房……」
その言葉を聞いて一瞬キョトンとするものの、すぐさま体は厨房へと向かった。
(もしかして……!)
厨房に到着して中へ入ると、そこにはちょうどケーキを作り始めようとしているお母様がいた。
「お母様!!」
「あら、イヴちゃん! どこにいたの? 部屋を覗いてみてもいなかったから」
「すみません。実はステュアートお兄様がいらしていて」
「あら、ステュアートが?」
ステュアートお兄様が来訪した目的と、二人の眠りを邪魔しないように挨拶を代わりに受けていたことまで含めて伝えた。
「気を遣わせてしまって申し訳ないわ。つい先程目が覚めたばかりで……」
「本当に、本当にお疲れ様です、お母様」
「イヴちゃん……」
起きたばかりとは言えど、元気そうで笑顔なお母様を見ると私まで嬉しくなってしまった。そして衝動的に、お母様の元まで走っていく。
「お母様っ!!」
「わっ、イヴちゃん!」
そしてお母様に勢い良く飛び付いた。
「お母様。お母様は私の自慢のお母様です」
「まぁ……そんなに言われると照れてしまうわ」
すっと見上げてお母様の瞳を捉えると、さらに笑みを深めた。
「大好きです、お母様」
そう告げれば、お母様はそっと私を抱き変えてぎゅっと抱き締めてくれた。
「私もよ。世界で一番の宝物だわ。イヴちゃんが大好きよ」
「……お父様よりですか?」
「あら。難しい質問ね」
お母様の、お父様に対する愛を知っている上での問いかけだった。もちろんお母様自身も、それはわかっていたことだろう。
お母様が答えを出すよりも先に、温かな声に遮られてしまった。
「すまないイヴェット、その座は譲ってほしい」
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