48.貴方が隣にいてくれるだけで(オフィーリア視点)
遂にフォルノンテ公爵家主催のパーティーがやったきた。
ユーグリット様に贈っていただいたドレスを身に纏うと、嬉しさで笑みがあふれでていた。出発しようと玄関に向かえば、ユーグリット様が自室まで迎えにきてくれた。
「……よく似合ってる」
「ユーグリット様も…………驚きました。私のドレスと対になっているんですね」
「あぁ。どうだろうか?」
「……控えめに言って最高です」
自分のドレスの存在しか知らなかったので、ユーグリット様とペアの衣装を着れていることにこの上ない幸せを感じてしまう。
(……しっかりしないと。今日は戦いの場でもあるんだから)
ぎゅっと目を瞑りながら、現実を思い出す。
「オフィーリア。何があっても私は隣にいる」
「……ありがとうございます。凄く心強いですわ」
緊張を感じ取ったユーグリット様は、優しく手を取りながらそう告げた。二人で頷き合うと、玄関へと向かった。
玄関前には愛する子ども達と、トーマスを筆頭とした侍従達が送り出すために並んでいた。
「わぁ……!! お母様、お父様。凄くお綺麗です」
「とてもお似合いです」
「ふふ、ありがとうイヴちゃん、シュアちゃん」
「ありがとう、二人とも」
イヴちゃんは目を輝かせながら、装いを褒めてくれた。その姿は、久しぶりに見るイヴちゃんの子どもらしい姿だったように感じた。
少し眺めると、イヴちゃんは眼差しを変えて私をもう一度見つめた。
「お母様、お父様。お屋敷で応援しておりますね」
「頑張ってください」
イヴちゃんが胸に両方の拳を掲げると、隣でシュアちゃんも真似るように応援してくれた。
「ありがとう。二人に恥じぬよう精一杯力を尽くしてくるわ」
「私も……私にできることを全てしてくると約束する」
「ユーグリット様」
「……隣にいることは前提で、必ずオフィーリアのために動く」
意外な解答にユーグリット様のお顔を見れば、凄く心強く感じる眼差しされていた。かと思えば、ふわりと微笑んで名前を呼んでくれた。
「……行こう、オフィーリア」
「はい、ユーグリット様」
それはまるで、私の緊張を溶かしてくれるほど柔らかい笑顔と声だった。その優しさが嬉しくて、私も思わず笑みを返した。
(ユーグリット様が隣にいてくれるだけで心強いのに……まさかこんな宣言を聞けるだなんて)
正直な所、キャロラインと直接的に戦うのは私一人だとばかり思っていたのだ。だからこそ、ユーグリット様から出てきた言葉は凄く嬉しくて頼もしいものだった。
私の中に残っていた最後の憂いと不安が、ユーグリット様によって書き消された。
そして私達はフォルノンテ公爵邸に向けて出発するのだった。
◆◆◆
〈キャロライン視点〉
今日は待ちに待ったフォルノンテ公爵家主催の夜会の日。フォルノンテ公爵家主催の催し物は、貴族であれば……特に女性であれば誰もが一度は参加したいと憧れるほどの場所。
今回の夜会は規模として大きいもので、当然ながら参加者も多い。
(……オフィーリアとの件を訂正するには最高の場だわ)
そう思いながら、夫ともに主催へと挨拶に向かうのだった。
(それにしても、本当にフォルノンテ夫妻は素敵だわ……)
公爵という王家を除く最高地位に相応しい立ち振舞いと気品は、誰もを圧倒する力があった。かくいう私もその一人で、夫妻の圧倒的な雰囲気には魅了されていた。
(さすがは公爵家……オフィーリアが同じ出身だとはあまり思えないわ)
ふっと笑いながら、かつての友人のことを思い出した。
オフィーリアは確かに品があって、身分としては高いものだ。しかし、下の者と……私達と絡み続けた結果、シルビア様の持つような圧倒的な雰囲気は今では薄れていったのだ。
(社交界にも滅多に顔を出さないもの。……なんてもったいない地位)
思えば昔から、オフィーリアが自身の持っている肩書きを理解していない気がしていた。それが愚かだと思うこともあれば、そのままでいればいいと感じることもあったのだ。
(それもあって、拘束し続けたけど……今になって反抗してくるなんて)
再びオフィーリアに台無しにされたお茶会のことを思い出してしまった。
(落ち着かないと。今日すべきことは真実を皆様にお伝えすることなんだから)
そう切り替えると、私は女性陣の集まる場所へと向かった。
オフィーリアによってお茶会が開かれていることは知っていたので、まずはそこに参加していない人から接触を図ることにした。
(同年代の夫人方はオフィーリアの味方でしょうけど、それより年齢の上と下にはまだ私の言い分が通じるはずよ)
そう判断すると、少し下の世代に話をしに向かった。
「皆様ごきげんよう」
「キャロライン様……ごきげんよう」
四人で話されていた夫人方は、話をやめて私の方を向いた。
「お話をされている所ごめんなさいね。少し話をさせていただきたくて」
「あ……」
「それは、オフィーリア様との件でしょうか?」
「えぇ」
(興味を持ってくれているならこっちのものよ)
気まずそうに顔を見合わせる中、一人がそう尋ねたので、あくまでも穏やかな笑みで頷いた。
女性陣は噂話を好む。それは私も同じで、他の貴族達も当てはまる。だからこそ、面識がなくても噂の本人から話を聞くのを嫌がる人はそういない。
そして私は知ってる。噂話は訂正したもの勝ちだと。
(どうせオフィーリアは顔を出さないもの。だから私の話が必然的に真実になるのよ)
だから関心を持ってもらえた時点で、正直私の勝ちは確定している。夫に噂を訂正して回ると約束した以上、火消しをし始めるのだった。
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