47.最高の贈り物(オフィーリア視点)
いよいよフォルノンテ公爵家主催パーティーが明日に迫って来ていた。
パーティーという正式な社交場に出るのは久しぶりだったので、少し緊張しながらも礼儀作法を一通り復習しなおした。
「これくらいかしら」
お義姉様には、私はユーグリット様とただ仲良く入場して存在を見せつけてくれるだけでいいと言っていたが、私はキャロラインが大人しく引き下がるようには思えなかった。
(何を言われても言い返せるようにしておかないと……)
以前のお茶会では、相手に話す隙を与えなかったため口論と言うよりは私が一方的に主張するだけで終わった。しかし、今回はそうはいかないだろう。何せ、キャロラインからすれば自分の人生がかかっているようなものだから。
(……だとしても、容赦しないわ)
ぐっと手に力を入れたところで、部屋の扉がノックされた。
「イヴちゃんかしら」
そう呟きながら扉の方へ向かうと、現れたのはユーグリット様だった。
「ユーグリット様……!」
「突然すまない。今、問題ないだろうか」
「もちろんです。どうなさいましたか?」
「なんとか間に合ったんだ……オフィーリアのドレスが」
「え……」
固まる私に、ユーグリット様は手を差し出した。
「良かったら見てくれないか? 気に入らなかったらオフィーリアが既に持っているものを着てくれて構わない」
「そ、そんな。ユーグリット様にご用意いただいたドレスなら、何でも無条件に着ますわ!」
「ははっ、それは嬉しいな」
まさかドレスを用意してもらうなど考えもしなかったので、驚きながらも部屋を移動した。
「急ぎ作ってもらったものなんだ」
そう言って、ユーグリット様は部屋の扉を開けた。中には、一つのドレスが輝きを放っていた。
「素敵……」
ドレスは青を軸の配色となっており、落ち着いた色味でもありつつ、指し色には紫が含まれていた。レースがふんだんに使われたドレスは、品の高いもので、誰も着なくとも強い存在感を放っていた。
「ユーグリット様は天才ですか? こんなに素敵なドレス……見た事がありません」
「気に入ってもらえてよかった……」
「早くこのドレスが着たいです」
「私も……早くこのドレスを着たオフィーリアが見たい」
思わぬ返答に見上げれば、恥ずかしそうに微笑み合ってしまう。
「近付いてみても?」
「もちろんだ」
近くで見ると、より一層輝きが増したドレスになっていた。
「……このドレスは仕立てていただいたんですか?」
「あぁ。シルビア様に腕の良い仕立て屋を紹介してもらえて」
「お義姉様が……」
「親切に教えてもらえたよ。それで急ぎ作ってもらったんだ」
急いで作ったにしてはとても完成度が高く、細部までこだわりが見えていた。ドレスを眺めていて、気になることが一つあった。
「ちなみに色は何かこだわりが?」
「あ……」
私の今の部屋から連想される色は間違いなく紫だろう。しかし、それは今回指し色になっており、中心は青色になっていた。
「……その。オフィーリアが紫色を好んでいるのは知っている。しかし……今回はどうしても、私の色をまとって欲しくて」
「!!」
「少々強引かもしれないが……一般的に私の色は青、だろう? 他の参加者に伝えるには青の方が適切だと思ったんだ」
推し色で思考が偏っていたが、そうだ。ユーグリット様の色は本来であれば青色なのだ。その事実に気が付いた瞬間、恥ずかしさと嬉しさが複雑に絡み合って顔が一気に赤くなる。
「ユ、ユーグリット様のお色……」
「嫌、だっただろうか」
「ま、まさか! 凄く……凄く嬉しいです」
改めてドレスを見れば、確かに青色と言えど限りなくユーグリット様の持つ青色だった。
「ふふっ……」
「オフィーリア……?」
「私、今とても幸せです」
「!」
恥ずかしさを誤魔化すように笑顔を浮かべれば、ユーグリット様に勢いよく引き寄せられてしまった。
「ユ、ユーグリット様?」
「オフィーリア……一つお願いしたいことがある」
「は、はい」
「今みたいな笑顔は……絶対に明日はしないでくれ」
「えっ」
「オフィーリアのその愛らしい笑顔を見られるのは私だけでいい」
抱きしめる力が強くなると、私は恥ずかしさのあまり顔の熱がこれ以上ないほど上がってしまった。
「や、約束しますわ」
ユーグリット様にそう返せば、少し経った後にそっと力を緩めて顔を見せてくれた。
「……本当に?」
「はい」
こくりと頷けば、ユーグリット様は嬉しそうに微笑んだ。その破壊力のある笑顔を見て、私はユーグリット様に一言お願いした。
「ユーグリット様も……ですよ?」
「……あぁ。約束する」
約束を交わしたところで、もう一度私達は微笑み合うのだった。
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