44.お母様の魅力発揮です!
お茶会の一般的な立ち回りとしては、招待客が主催に挨拶をするのが一般的だ。主催が格上なら、なおのこと挨拶をしに下の者が動かなくてはいけないという暗黙のルールがある。
(お母様は通常運転だわ)
その暗黙のルールなどまるで興味がないかのように、お母様は主催にもかかわらず挨拶をしに自らが動き回っていた。
恐らく、こんなにも多くの人に集まっていただけたことに対する喜びからじっとしていられなくなったのだと思う。
(ご夫人方が戸惑うのも無理ないわね)
それが母、オフィーリア・ルイスの魅力でもあるのだ。
心底嬉しそうな表情で、一人一人丁寧に挨拶をこなす姿は、とても主催を初めて行うようには見えなかった。
「オ、オフィーリア様。よろしければ後程お話しを」
「もちろんですわ。少しお待ちいただきますがーー」
「全く問題ありません……!」
「良かった。なるべく早く参りますね」
お母様と話したい方もいれば、眺めているだけで満足されている方、お茶やお茶菓子を味わっている方など。人それぞれではあったが、共通して皆様楽しんでいるように見えた。
「オフィーリア様。この紅茶の茶葉、とても美味しいです」
「お口にあって何よりです」
「何度でも飲みたくなる程、上質な味わいで」
「ありがとうございます。後でお店の名前を書いた紙をお渡ししますね」
「い、いいのですか?」
「えぇ、もちろん。良いものは共有した方がよいでしょう?」
さらりとお母様は述べるものの、本来であれば教えることはないのだ。一連の流れに驚いたのはジョシュアも同じだった。
「……用意するお茶って、自分のお茶会に来てもらうための隠し道具だよね」
「そうね」
「だからそれを教えたら、お茶会に参加してもらえなくならない? ……お母様はそれでいいのかな」
ジョシュアの抱く心配もよくわかる。しかし、お母様は教えることに一切の抵抗がない様子だったことから、お母様は茶葉を武器にするつもりはないということだ。
「良いものは共有を。これがお母様の揺るぎない心情なのだと思うわ。それに、お母様は元々人をたくさん集めるためにお茶会を開いたわけではないから」
「あ……そっか。今日は一応謝罪でもあるのか」
仕切り直しという意味で開かれたお茶会。今後お母様がお茶会を開くかはわからないが、もし再び主催をすることになっても、お母様に隠し道具は必要ないだろう。
「また主催をされても大丈夫よ、絶対」
「そうだね。……当分の間はお茶会の主催よりお父様との時間を大切にしそうだしね」
「確かに。そうじゃない」
ジョシュアの言葉に凄く納得をすると、顔を見合わせて思わずくすりと笑みをこぼす。
「いらない心配だったかな」
「そうね」
二人でどこか楽しそうに笑い合うと、引き続きお母様のお茶会を見守り始めた。
その後も、お母様は全体を見渡しながら平穏な空気を保ち続けた。上でそっと覗き見している私でさえ雰囲気のよさを感じ取っていた。ご夫人方からしても、凄く居心地のよい空間だったと思う。
「……大成功だわ」
「みたいだね」
私とジョシュアは安堵していた。
笑顔の絶えない会場は、非常に幸せそうな空間だった。ほのぼのとした空気は、ご夫人方が会場を後にするまで続くのだった。
◆◆◆
〈キャロライン視点〉
「オフィーリアがお茶会の主催ですって!?」
「え、えぇ。そうみたいなの」
その話は突然友人から教えられた。
以前のようにお茶会を開こうとしてみれば、友人以外のご夫人方からは欠席の返事が届いていた。
どうにか自分の印象が以前と変わらないように動いていたはずなのに、全員揃って欠席と送り返されるとは思いもしなかったのだ。
人が集まらなかった今日は、仕方なく学園時代で同じサロンだった友人達と小さなお茶会をすることにした。
少人数ということもあり、場所はデリーナ伯爵家の私の部屋で行っていた。
「そのお茶会がね、どうやら今日みたいで」
「!!」
ガシャン!!
怒りのあまりに、茶器を払って床に落としてしまう。
「オフィーリアっ……!!」
駒だと思っていた彼女に、まさかここまでやり返されるとは思わなかった。
「今まで散々面倒を見てきてあげたというのに」
「そうよね……さすがにこの仕打ちはあんまりだわ」
「えぇ。オフィーリアもやりすぎよ」
友人達も不満げにオフィーリアの名を出した。
「……許さないわ」
そう私が一言漏らした瞬間、部屋の扉が開かれた。
「あら。あなた」
ノックもなしに部屋に入ってきた夫に文句を言うか悩んだ。しかし、床に落とした茶器を見て、彼は落とした音に心配して様子を見に来てくれたのだろうと、思った。
そう判断しているうちに、いつの間にか彼は目の前に来ていた。
パンッ!!
「…………え?」
彼は心配することもなく、声を発することもなく、ただ私の頬を勢いよく叩いたのだった。
「キャロラインのご友人方。すまないが今日はお帰り願えるだろうか」
「「……」」
何が起こったのかまるでわからず、友人達も唖然として固まっていた。
「は、はい」
「失礼します」
どうして叩かれたのかわからないまま、そそくさと帰る友人二人の後ろ姿を見続けているのだった。
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